『のぼる小寺さん』の純度
古厩智之監督の『のぼる小寺さん』を劇場で見た。最初新聞評などでこの題名を見た時、「なんだそれは」と思った。同名の漫画があるというが、もちろん読んだことはない。しかし映画自体も、この題名と同じくらいぶっ飛んでいた。
工藤遙演じる「小寺さん」は、高校のクライミング部でボルダリングに「のぼる」ことに人生をかけている。毎日、放課後に懸命に「のぼる」。学校の進学アンケートで第一志望に「クライマー」と書いて先生を呆れさせるくらい。
彼女の懸命に「のぼる」姿は周囲の高校生に影響を与えてゆく。同じ体育館で練習する卓球部にいる近藤(伊藤健太郎)、中学の時から彼女が好きでクライミング部に入った四条(鈴木仁)、写真家志望で小寺さんをこっそり写真に撮るありか(小野花梨)、高校に行かずにネールを学ぶ梨乃(吉川愛)。
みんなが小寺さんに惚れ込んでしまい、彼女の真剣な姿を見て自分も頑張ろうと影響を受けてしまう。それだけの話である。学校の授業もないし、先生も進路指導の紙を配るシーンだけ。学園ものに必須の両親も兄弟も近所の人も誰も出てこない。
観客は、ひたすら小寺さんを見守るうちに、どんどん応援したくなる。終盤、小寺さんの努力はある形を結び、影響を受けた同級生たちも少しだけ成長する。最後の小寺さんと近藤の姿に嬉しくなる。それにしても最後を除くと小寺さんは感情を見せない。「のぼる」ことに懸命なだけ。
今どき、こんな純粋な高校生たちはいるのだろうか。しかしこの映画を見ると、少なくとも自分の高校生の頃にはいたし、今もいるに違いないと思いたくなる。そんな不思議な純度の高さを持つ映画だった。
小寺さんの純度にふさわしい、夏の光や空もすばらしい。高校生たちが体育館の横の庭にいると、どこからか永遠の時間が流れてくるような久々の青春映画の秀作だった。
この監督は『ロボコン』や『武士道シックスティーン』など見たが、高校生を主人公にした同じタイプ。この才能を生かして次はぜひ違うジャンルの映画に挑戦して欲しい。
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- 少しだけ東京国際:その(5)(2024.11.06)
- 少しだけ東京国際:その(4)(2024.11.05)
- 少しだけ東京国際:その(3)(2024.11.04)
- 少しだけ東京国際:その(2)(2024.11.03)
- 少しだけ東京国際:その(1)(2024.10.30)
コメント