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2020年8月 1日 (土)

『シチリアーノ』の凄み

8月28日公開のマルコ・ベロッキオ監督『シチリアーノ 裏切りの美学』を試写で見た。この監督は今世紀になって復活した感があるが、本作は『夜よ、こんにちは』(03)や『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』(09)に匹敵する凄みがある。

考えてみたらこの3本はどれもイタリアの現代史を扱ったものだ。ムッソリーニ、赤い旅団、そして『シチリアーノ』の80年代から90年代のマフィア抗争とブシェッタ。どれもイタリア人の心性に深く根差した「あまりにもイタリア的な」事件だ。

3本とも外国人にはわかりにくい。とりわけマフィアについては複雑すぎて知ろうと思う気さえ失せそうだ。この映画で主人公のトンマーゾ・ブシェッタが獄中で情報を提供するジョヴァンニ・ファルコーネ判事は1992年5月に殺害されるが、私はその年の7月から9月までパリに滞在し、イタリアに何度も行ったのに、当時はこの名前を記憶していない。

その後イタリア映画祭を始めてイタリア映画を大量に見ているとあまりにファルコーネ判事の名前が出てくるので、さすがに覚えた。一番記憶にあるのは『輝ける青春』(2003)だろうか。当時のニュース映像も使われているが、たぶん同じ映像が『シチリアーノ』にもあった。

この映画は1980年9月のマフィアのパーティから始まる。花火が上がり、大賑わいだが、そこには不穏な空気が漲っている。トンマーゾ・ブシェッタ(ピエルフランチェスコ・ファヴィアーノ)はパレルモ派の大物だが、前妻の息子たちを友人に預けて、3番目の妻クリスティーナの出身地、ブラジルへ旅立つ。

そこにブシェッタの友人や家族が次々と殺される映像が挟み込まれる。「54人目、ステファノ・ボンターデ」という具合にそれぞれ何人目かが明示される。数字は150を超す。ある時ブシェッタの自宅にブラジル警察が踏み込み、麻薬取引容疑で逮捕される。84年イタリア政府に身柄を引き渡され、ジョヴァンニ・ファルコーネ判事と会う。

ここまでが1時間くらいだろうか。面白くなるのはここからで、ブシェッタは次第にファルコーネ判事の人柄に惹かれ、真実の供述を始める。487頁に及ぶ供述書をもとに一斉逮捕が始まる。イタリア各地で366人が逮捕され、86年2月には裁判所で何十人ものマフィア幹部が出席して公判が始まる。

裁判は毎回罵り合いで大混乱。憎しみ合う人々がそれぞれに勝手なことを言う。訳が分からなくなり、裁判長は中断する。さらにシチリア方言で話すコントルノ(ルイジ・ロ・カーショ)に弁護士たちは「全くわからない。イタリア語を話してくれ!」と叫ぶ。この阿鼻叫喚のような場面がベロッキオの真骨頂で、87年の判決のシーンにオペラ『ナブッコ』が流れると震えが来た。

ブシェッタはアメリカに逃げ、転々としてに暮らすが、92年にファルコーネ夫妻は虐殺される。ブシェッタは帰国し、さらに裁判は続く。もっと書きたいが、この辺りで止めておく。劇場でもう1度見るつもり。これぞ、本物のイタリア。夏の暑さを忘れるほど怖い。

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