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2020年7月29日 (水)

本を書いて考えたこと:その(8)

私は髪を切るのに、歩いて3分の「床屋さん」に行く月に一度。そこでは70歳ほどのご主人に「いつもの通りお願いします」だけ言って、あとは一言も話さずに切ってもらう。ところがある日行ったら、「古賀さん、大学教授だったんですね」と言われた。

「読みましたよ」と言われて見ると、そこには私の本をめぐるインタビューが載った『サンデー毎日』があった。この床屋さんは待合室に普通の週刊誌で唯一この雑誌を毎週置いていた。

そのインタビューは電話によるものだったが、新潮社から送られたポーズを取った写真が大きく載っていた。「写真ですぐにわかりましたよ。こういうお仕事だから、海外に行かれるんですね」

「はあ、一応そうなんですが、何を教えているやら」としどろもどろになる。髪を洗ってくれる奥さまも興味津々で「大変なお仕事ですねえ」。この床屋さんには行く前に「今から大丈夫ですか?」と必ず電話をする。だから「古賀さん」という名前だけは知られていたが、何をしているのかは謎だったはず。

平日の昼間にも現れるヘンな中年男だったに違いない。ご主人は「私は物書きだと思っていました。実はベストセラーを書いているとか、想像していたんですよ」。どうも大学の教師のイメージはなかったようだ。

自宅の近所には私の仕事を知っている飲み屋が2軒だけある。1つはカウンター中心の店だが、マスターが私が教えている大学の同じ学科の卒業生で、そこに来ているお客さんからバレてしまった。

もう1つは鮨屋さんで、ある日偶然そこの客に私の前職時代の仕事相手がいた。大手広告会社に勤めるFさんは、私を見ると大騒ぎを始めた。酒を飲んでいるから止まらない。そのうえ、鮨を握る板前さんの息子さんが私が教える大学の学生だった。

そんなこんなで23年も同じ場所に住んでいると、いろいろバレて来る。幸いにして「有名人」ではないので、この程度でよかった。若い頃、フィルムセンターに勤めていた年上の友人が私にこう言った。「映画館でいきなり話しかけられたことが何度かあって、嫌なもんです」

その時はそのくらいいいじゃないかと思ったが、確かに知らない人に声をかけられるのは今は苦手だ。そういえば、私にも最近一度だけあった。自宅の近所を歩いていたら、若いOL風の女性からいきなり「先生の授業を取ってました!」と言われた。もちろん記憶にないが「そうですか、それはそれは。お元気でご活躍のようで何よりです」とお爺さんのような答えをしてしまった。

 

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