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2020年7月27日 (月)

ベネチアの宿:その(1)

須賀敦子に『ヴェネツィアの宿』という短編集があった。たしかこの題名の短編が冒頭にあって、学会でフェニーチェ歌劇場近くのホテルに泊まった話だった。ベネチアの宿というのは、普通のヨーロッパの「ホテル」とはちょっと違う感じがする。

まず、狭い。まるで日本のビジネスホテルのようだが、付近を運河がめぐっていて、水の音がする。窓から運河が見えることも多い。狭い割に天井が高く、安ホテルでもよく見ると立派なシャンデリアがあったりしてなかなか優雅な雰囲気だ。かなり大きめのホテルでも家族経営だったりするのもいい。

『ベニスに死す』で使われた「ホテル・デ・バン」のあるリド島に行くと、その優雅さは増す。基本的には裕福な夏のバカンス客向けで、冬は閉じている。大きなホテルはプライベートビーチがあって、海水浴のためのテントがずらりと並んでいる。あるいは別荘用のアパートがあちこちにある。

大学に移って10年あまり、ほとんど毎年のようにベネチア国際映画祭に出かけた。最初は1週間ほど遊びに行っていたが、この5年ほどは新聞や雑誌にレポートを書いていた。この時期はホテルが2~3倍になるので、私が泊まるのはかつて個人の邸宅だったような小さめのホテル。最近は1階が広々として庭もある「バイロン」がお気に入りだったが、去年行ったら閉じていた。

結局、「アンジェリカ」という10室ほどの小さなヴィラに泊まったが、あまりよくなかった。さて今年はどこに泊まろうかと考えていたら(これが一番楽しい)、コロナ禍が始まった。普通だと映画祭の時期の予約は即カード払いだが、3月半ばの段階では映画祭が開催されるのかわからなかった。

いろいろ調べたら泊る1カ月前までなら無料でキャンセルできるホテルがあった。とりあえずそのうちの1つを予約して、様子を見ていた。カンヌは結局4月にキャンセルを発表し、なぜか6月初めにセレクションのリストだけを発表した。そのうち何本かは例外的にサン・セバスチャン映画祭のコンペに出るという。

これはベネチアとの協議が決裂したなと思っていたら、7月になってベネチアが映画祭をやると発表した。大きな国際映画祭ではコロナ禍後、最初のリアル開催になる。確かにイタリアの感染者増は収まっているが、日本はかなり危ない状況だ。今では日本からイタリアには問題なく入国できるが、帰国したら2週間隔離となる。

もちろん私が勤める大学から許可が出るはずもない。そんなわけで思い切って宿をキャンセルした。見てみると、今年はまだまだホテルに空きがある。例年ならば、今週木曜に発表されるセレクションが既に関係者には伝わっていて、どこも取れなくなる時期だが。

夏の終わりにベネチアに行って、毎日映画ばかり見て、おいしいベネチア料理を食べてワインを飲む。あるいは海岸で泳ぎ、ビエンナーレの美術展を見る。そんな年に一度の道楽が、今年はできない。

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