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2020年8月24日 (月)

『シリアにて』に唸る

フィリップ・ヴァン・レウ監督の『シリアにて』を劇場で見た。内戦が続くシリアのアパートの24時間を撮ったものだが、最初はベルギーの監督が正義感に駆られて撮ったのかくらいに思っていた。室内劇だし、どこで撮っても同じだろうと。

ところが86分の映像の中にドラマが巧みに仕込まれていることに唸った。冒頭で赤ん坊を育てるハリマは夫から今晩には出国できるという話を聞く。ところが夫は家が出てすぐに庭でスナイパーに撃たれたのを、メイドのデルハニが窓から見た。

デルハニは女主人のオームにそのことを告げるが、オームは誰にも話すなと命じる。オームには父と3人の子供がいて、長女の彼氏もアパートにいる。ハリマたちは、同じアパートの別の部屋から何かの理由で出て、オームの家に居候をしているようだ。

ハリマと子供がアパートの玄関にいる時に2人の見知らぬ男がやってくる。オームたちが隠れている台所の鍵を閉じたまま、ハリマはレイプされる。その後、ハリマは夫が撃たれたことを聞いて庭に行くと、まだ息があった。一方、オームには戦場に行った夫から電話があった。

それだけの話だが、密室の中に聞こえる小さな音から何かが起き、ドラマが積みあがってゆく。アパートからはこの家族以外はみな撤退して、オームたちだけが暮らす。外からは時おりスナイパーの銃声が響く。アパートの入口は鍵を二重にしたうえに、つっかえ棒を2本通しているが、突然アパートをたたく音が何度か響き渡る。

オームとハリマの微妙な関係を、鏡を使った繊細なカメラがとらえる。この2人は見たことがあると思ったら、オームを演じたヒアム・アッバスはパレスチナ映画『ガザの美容室』、ハリマ役のディアマンド・アブ・アブードはレバノン映画『判決、ふたつの希望』に出ていた。このあたりも含めて、うまい作りだ。

家の中の24時間だけでこれだけの作品ができるとは、やはり映画はなんでもありだと思う。

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