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2020年8月27日 (木)

トロント型に向かうか、東京国際映画祭:その(3)

今年の東京国際映画祭の一番の驚きは創立以来のコンペをなくしたことだったが、もう1つの大きな変化は「東京フィルメックス」と同時開催になったことだ。2000年に「東京フィルメックス」を始めた市山尚三氏は、その直前まで東京国際映画祭の「シネマプリズム」部門のプログラマーだった。

それが東京国際映画祭の翌月に、同じ東京で東京フィルメックスを始めた。もちろん規模はずっと小さいが、市山氏の人脈とセンスで世界のアート映画のトレンドを見せるセレクションは、「東京国際映画祭と比べて」映画ファンの支持を得た。私自身も勤めていた新聞社で応援する仕組みを作った。

しかし10年ほど前から東京国際映画祭のセレクションがかなり良くなったので、私はもはや東京フィルメックスの役割は終わったと考えて、朝日新聞デジタル論座に「役割を終えた映画祭「東京フィルメックス」 東京国際映画祭との統合が「国益」だ」という文章を書いたのが2014年12月。

市山氏と話すと、東京国際映画祭の一部分だった「シネマプリズム」と違って、フィルメックスの形で別にするとマスコミがきちんと見て評価してくれるのがいい、と語っていた。私はその自己満足のために映画祭をやっているのかと思ったが、もちろん本人には言わなかった。私の考えには賛同する人もいたが、「あの」東京国際映画祭と一緒になったらダメだという人も多かった。

そして今回、突然同時期の開催が発表された。「更には、これまで時期的に近接して開催していた東京フィルメックス映画祭との連携を深め、カンヌ映画祭の大きな枠組みの中で独立性をもって開催される「カンヌ監督週間」と似た形で、ほぼ時期を同じくして開催致します。映画界の連帯強化という理念の下に、相互乗り入れ効果を期待しています」。

これには映画祭のチェアマンとなった安藤裕康国際交流基金理事長の意向が反映されているようだ。安藤氏が去年のベネチアで市山氏に接触していたのは私も見た。市山氏も長年フィルメックスの母体となったオフィス北野が撤退し、後を支えたキノフィルムズも引いたので、このままでは継続は難しいと思ったのかもしれない。

私は2018年にキノフィルムズが東京フィルメックスを支援し始めた時に、同社は東京国際映画祭のメインスポンサーでもあるので、木下社長が2つの映画祭を一緒にするよう動いたらどうかとも書いた。一応木下氏に郵送したが、もちろん返事はない。

さて「カンヌ監督週間」と違うのは、あちらではそのディレクターはカンヌの本体とは関係がないが、市山氏は今回は本体の選考委員の1人でもあること。これはどう見ても「独立性を持って開催される」とは言いにくい。彼はフィルメックスには渋い作品を選び、より一般向けの作品を東京国際へ推すのだろうか。

今回の大改革は、安藤チェアマンがコロナ禍にかこつけて押し切ったように見えるのだが、私の従来からの提案(であり多くの人の意見)が中途半端に取り入れられて、妙な具合になった。ディレクターのいない合議制の選考に加えて、東京フィルメックスとの曖昧な合併。あえて今年のこの段階を経て、来年本格的に変えるというのだろうか。

去年の東京国際映画祭について書いた文章は、「フェスティバル・ディレクター」の久松氏や前の「ディレクター・ジェネラル」の椎名氏にメールで送ると、向こうから「説明したい」と言ってきた。去年からチェアマンになった安藤氏には郵送すると、だいぶたって電話が来た。「ジャパン・ナウ」の安藤絋平さんからも送ってくれと電話があった。さて、効果はあったのかどうか。彼らとの会話については後日書きたいが、難しいか。

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