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2020年8月14日 (金)

『ジョン・ラーベ~南京のシンドラー~』を見る

ドイツのフロリアン・ガレンベルガー監督の『ジョン・ラーベ~南京のシンドラー~』をDVDで見た。もちろん学生企画の「中国を知る」映画祭の準備のためだが、ちょうど秦郁彦著『南京事件』を読んだばかりだったので、理解しやすかった。

この映画は2009年のベルリン国際映画祭で上映されたが、日本の配給会社は公開に二の足を踏んだ。2014年から自主上映の形で上映が始まり、DVDも出た。いまだに映画館では上映されていないが、見てみるとなかなか見ごたえがある。ドイツのアカデミー賞の「ドイツ映画賞」で作品賞を含む4部門受賞というのも理解できる。

この映画がおもしろいのは、主人公のジョン・ラーベ(ウルリッヒ・トゥクレール)を英雄として描いていないところだろう。ドイツ生まれで中国で27年を過ごし、事件が起きたときはジーメンス社の南京支店長。ヒトラー信奉者でもあり、帰国命令が出て喜んでいる妻思いの会社員という風情なのだ。映画は彼の日記を追う形で進んでゆく。

1937年12月、日本軍が南京に進駐し、捕虜を殺害し各地で略奪を始める。南京に残った十数名の欧米人たちは、上海の例に倣って「国際安全区」を作ろうと考える。中心となった教師のフランス女性デュプレ(アンヌ・コルシーニ)はその委員長にラーベを推薦し、医者ウィルソン(スティーヴ・ブシェミ)やドイツ大使館員ローゼン(ダニエル・ブリュール)の賛同を得る。

彼らは日本大使館に日参して安全区を承認させるが、ラーベの中国人運転手は日本兵と揉めて殺される。上海派遣軍の司令官、朝香宮中将(香川照之)は部下の小瀬少佐(井浦新)に「捕虜の殺害は国際法に反する」と言われても「明日は捕虜の顔は見たくない。お前に任せる」と処分を命令する。朝香宮の上には松井大将(柄本明)がいる。

デュプレは安全区に脱走した中国兵の一群を匿い、ウィルソンは中国人同僚医師の息子で負傷した兵隊を病院に隠し、それぞれ日本軍の捜索で殺される。しかし全体に日本兵による殺戮の場面は多くないし、中国人からの略奪や強姦は出てこない。それでも残忍でずる賢い存在として日本軍幹部の姿は残る。

翌年2月にラーベが帰国する時、港には彼を惜しむ中国人たちが溢れる。映画としてはこれでおしまいだが、もちろん日本軍の進軍は続き、これから武漢へ向かう。最後にクレジットとして安全区によって20万人の中国人難民が救われたこと、日本兵の中国人殺害が30万人を超すとも言われていることが述べられる。

「30万人以上」は根拠が定かでないが、オール中国ロケでドイツ=フランス=中国の合作なので入れざるを得なかったのだろう。驚いたのは朝香宮が捕虜殺害の命令者として冷酷に描かれていたこと。東京裁判が天皇を無罪とする方針を出したこともあって、朝香宮もその後この件で批判されたことはあまりないのでは。ちなみに東京裁判では南京関係では松井大将のみが絞死刑となり、南京の軍事法廷ではBC級戦犯として4人が死刑になっている。

ラーベは帰国し、戦後はヒトラー協力者として非難されて1950年に亡くなっている。彼の手記が本になったのは1997年で、この映画はそれをもとにしている。監督としては『ヒトラー~最期の12日間~』のように歴史に新たな視点を加えたかったのだろう。俳優は欧米も日本も一流どころを揃えた、まっとうな映画だった。

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