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2020年8月11日 (火)

秦郁彦『南京事件』を読む

秦郁彦著の新書『南京事件 「虐殺」の構造 増補版』を読んだ。実は南京事件(大虐殺、アトロシティ)に関する本は、これまで一冊も読んだことがなかった。1980年代頃からあまりにもこの問題に関する本が毎年出ていて、うんざりしていた。今回読んだのは12月に学生が「中国を知る」映画祭を開催するから。

さて本屋に行くと、「南京大虐殺はなかった」という「まぼろし派」から30万人や40万人が殺されたという「大虐殺派」まで、いくらでもある。その中で一番ニュートラルな感じがしたのがこの『南京事件』。初版は1986年で23刷、増補版が2007年で7刷。

略歴を見ると筆者は元大蔵官僚なので最初は政府寄りかと思ったが、とにかく一次資料を中心に扱っているようなので、読むことにした。読んでいて一番驚いたのは、日本大使館や総領事館の外交官はもちろんのこと、軍の上層部も「まずい」と最初からわかっていたことだ。

南京事件は1937年11月に始まる。盧溝橋事件に始まって上海を制圧し、軍の一部は首都南京に向かう。これは第十軍が独断で判断したというから驚く。満州事変の時から前線の独断専行の前例があったからだろうという。そのことを数日後に知った大本営は止められない。

そして南京に集まった七万を超す兵隊には宿舎も食料もない。取り締まる憲兵の数も少なく、略奪が始まった。さらに捕虜の取り扱いに対する指針も出さず、占領後の軍政計画もなかった。自活する物資さえ持ち合わせない飢えた兵士たちはやりたい放題。さらに12月17日に行われた朝香宮殿下を筆頭に行進する「入場式」のために、疑わしい中国人をその日までに処分した。

南京に踏みとどまった欧米人20余名は「国際安全区」を作り、中国人難民を保護した。その安全区の委員長が90年末代に初めて日記が出版されたドイツ人のジョン・ラーベである。彼らは日本大使館に日参して取り締まりを要請したが、日本人外交官たちは「兵隊たちは手に余る」と無力だった。

第二次世界大戦中の日本軍が犯したおそらく一番ひどい残虐行為に至った直接的な理由は、以下の通り。

1.上海戦のように日本居留民の保護という目的がなく、祖国へ帰還する期待を裏切られた兵士たちは自暴自棄になった。2.弾薬、食料の補給が追い付かず、「徴発」という名の略奪が日常となり、その一環で強姦もはじまった。3.司令部は禁令を発したが無視され、中級幹部は証拠を残さないよう、強姦したら殺すよう命じた。4。兵士たちは捕虜に残虐行為を繰り返して不感症になり、中国人の無差別殺人に至った。

この本では日中の多くの一次資料を総合して、殺された民間中国人の数を4万人前後と推定する。それでも十分に多いが、この数字は「まぼろし派」と「大虐殺派」の両方から非難された。この本については後日また書く。

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