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2020年8月22日 (土)

『南京!南京!』をアマゾンの配信で見る

12月開催の学生企画の「中国を知る」映画祭のために、陸川(ルー・チューアン)監督の『南京!南京!』をアマゾンの配信で見た。これは『ジョン・ラーベ~南京のシンドラー~』と同じ2009年の製作でどちらも日本では劇場公開されていないが、共に映画としてのクォリティーは高い。

『ジョン・ラーベ』はドイツ映画賞を作品賞など4部門で受賞したが、こちらはサン・セバスチャン国際映画祭のゴールデンシェル(最高賞)を受賞している。どちらも1937年12月から翌月にかけての南京事件を扱っているが、アプローチも演出方法も全く異なる。

『ジョン・ラーベ』は題名通り、国際安全区の代表、ドイツ人ラーベを中心に日本軍や中国人とのやり取りを描くオーソドックスな歴史ドラマだ。ラーベを中心とした欧米人数名と同時に何人かの日本人や中国人もきちんと描いている。

ところがこちらはあくまで中国人を主に描く。中心となるのはラーベの中国人秘書の唐さんだし、中国人の国際安全区の委員として参加しているインテリ女性の姜さん、それから唐さんの妻や妹、孤児となった少年の小豆、あくまで髪を切ろうとしないお洒落な女性、江さんなど。それ以外にも何千人という群衆の中にも印象に残る顔や仕草がいっぱいだ。

その意味では、エイゼンシュテインの『戦艦ポチョムキン』(1925)を思い出した。前半で大勢の中国人捕虜が日本兵によって虐殺されるシーンがある。海の方に歩かされて一斉に射撃されたり、大きな穴に生き埋めにされたり、倉庫に閉じ込められて火をつけられたり。一つのシーンは短く、どんどん入れ替えて交互に見せる。

いかにも残酷だが、映像は中国人の顔を中心としたモンタージュを中心にむしろ美的に見せていく。悲壮なクラシック音楽と笛や太鼓や囃子を組み合わせた日本風の音楽を巧みに混ぜ合わせながら。書き忘れたが、映画全体はセピアがかった白黒の映像である。

ラーベの存在感は薄いし、ほかの欧米人は騒ぐだけで名前も出てこない。むしろ日本兵の方が遊んだり騒いだり、戦いを離れた時の無邪気な姿を見せる。とりわけ英語のできるインテリ青年の角川(中泉英雄)は人殺しが苦手で日本人娼婦に親切で優しい存在として好意的に描かれる。角川に殺害を命じる上司の伊田や、角川と仲良くなる娼婦の百合子さえも人間味を持って描く。

最終的には登場人物それぞれの「運命」を描くような形で終わってゆく。日本軍の捕虜虐待や慰安婦の強要はあっても、すべてが美的に終わってゆく。冒頭に「南京で犠牲になった30万人に追悼を表す」とクレジットに出てくるが、たぶんこれがないと中国ではこの映画は上映できないのだろう。

『ジョン・ラーベ』でも終わりに「30万人を超す中国人が亡くなったと言われる」とクレジットが出てきた。これはドイツ=フランス=中国の合作なので、やはり30万人という中国政府の公式見解は載せざるを得なかったのか。2本の映画を見てもそれだけの人数は感じられなかっただけにそう思った。

 

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