『リトル・ジョー』に寒けがした
ジェシカ・ハウスナー監督の『リトル・ジョー』を見て寒けがした。「アップリンク渋谷」で日曜日午後なのにガラガラで冷房が強かったこともあるが、それよりも内容が植物からの感染をめぐる話であまりにリアルだったから。
主人公のアリス(エミリー・ビーチャム)は研究所で遺伝子操作で作った花を栽培している。人間を幸福にするという大量の赤い花「リトル・ジョー」を栽培しているガラス張りの建物は厳重に鍵がかけられており、そこにはマスク着用が義務づけられている。
まずそこに年配の女性研究者が可愛がる犬が入り込み、おかしくなる。アリスはこっそりリトル・ジョーを一輪持ち帰るが、息子のジョーが次第に母親を遠ざけ始める。さらにアリスの片腕として働くクリス(ベン・ウィショー)やほかの同僚たちも少しずつ変調を来たす。
途中からこれは吸血鬼型の伝染かと思うが、残酷なシーンは出てこない。犬が自分の飼い主をわからなくなったり、息子が別れた夫に会いたがったりといった変化だが、衝撃は大きい。職場では全員が薄い緑のガウンを覆い、白に敷き詰められたリトル・ジョーを育てる。
アリスはリトル・ジョーが人間と心を通わせるために、遺伝子操作で花の生殖能力を消していた。みんながおかしくなるのは、リトルジョーの反乱なのかとみんなは疑い始める。
仕事に熱中して子供の世話をする時間のないアリスは、ガウンの下に薄いピンクや橙色など妙に人工的な服を着ている。料理は苦手で、鮨やベトナム料理のデリバリーを頼む。そこになぜか尺八などを使った音楽が流れて(作曲は日本人だった)、近未来的な雰囲気が画面いっぱいに漂う。
マスクをはずされたアリスが長時間花の温室に放置され、何となく「幸福」になって戻ってくる時、私はぞっと寒気がした。まるでコロナ禍でマスク生活を強いられている現代の日々の延長線上に、アリスたちがいるような気がしたから。
それにしても、何となく気持ちの良い、近未来の生活にふさわしいのは和食や和風の音楽とは。日本はその意味で一番危ない国かもしれない。最近の外国映画では一番おもしろかった。暑い夏にピッタリの映画だろう。
このオーストリアの女性監督は、『ルルドの泉』(2009)も抜群によかった。もっと注目されていい監督だ。
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