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2020年9月20日 (日)

『わが敵「習近平」』についてもう一度

「芥川賞作家」は、ある意味で日本では「オリンピック金メダル」や「アカデミー賞監督」などと同様に、一生ポジティブについて回る呼称かもしれない。そんなことを考えたのは、楊逸著『わが敵「習近平」』のオビに「芥川賞作家が覚悟の告発!」と書かれていたから。

つまり普通の中国生まれの作家ではなく、日本で栄えある「芥川賞作家」が言うのだぞ、という感覚なのだろう。この本自体が以下の文章から始まる。

「楊逸(ヤン・イー)と申します。中国・ハルビン市から日本に留学し、日本に帰化しました。日本語に魅了されて文章を発表していましたが、二〇〇八年に『時が滲む朝』(文藝春秋)という小説で芥川賞をいただくことができました」

自分の紹介はこれだけだが、読むとそうか立派なんだな、頑張ったんだなと思ってしまう。オビには「中国共産党の「大罪」を許せない」とも書かれている。つまり芥川賞作家だから言いにくいことも行ってしまうぞ、という感じだろう。

普通はこういう本を出せば、中国の国家安全部の観察対象になるだろう。実際、日本の大学の中国人教授が中国に帰ったら、拘束されて戻ってこれなくなったという事件は数件あった。暗殺だってあるかもしれないが、さすがに「芥川賞作家」は殺せない感じがする。もちろん彼女の場合は帰化していることも大きいだろうが。

それでもこの本を出すにはやはり「覚悟」が必要だったと思う。それについてこの本は書かれていない。「私の現在のパートナーはスウェーデン人で私の三歳年下」と書かれており、「だいぶ前から、六〇歳になるのを待たず、早めに仕事をやめてヨーロッパに移住して地中海沿岸のどこかで老後を送りたいと考えていた」と過去形で書かれている。

たぶんスウェーデン人の「パートナー」といつでも欧州移住ができる準備があっての「覚悟の告発」なのかもしれない。日本の国籍を取ることを決めたのは、娘を連れて故郷のハルビンに帰った時。乗り換えの瀋陽でホテルを予約しようとすると、「中国人だとパスポートは証明にならない。中国人の身分証明書を見せろ」と言われた。

彼女は日本在住なので中国人の身分証明書はないというと、「瀋陽のホテルには泊まれない」。結局袖の下を1500円ほど要求されて先方の友人のIDで予約できた。「中国ほどおかしな国はないと思って、帰国後、すぐに帰化申請をしたのです」

彼女は日本を「私のように地獄から脱出してきた人間からしたら、天国のように暖かい社会だと思います」「自民党政権がたとえ強権を握っても、中国共産党のような悪逆非道な真似はしないはずです」と書く。比較の問題だろうが、本当に「暖かい社会」なのだろか。

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