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2020年9月 9日 (水)

『糸』のうまさに唸る

瀬々敬久監督の『糸』を劇場で見た。ピンク映画出身のこの監督は『ヘブンズ ストーリー』のような超アート系も作れば、『64』のようなメジャー作品も作る。今回は最も大衆的な作りらしい。何といっても『糸』を始めとして中島みゆきの歌で綴る平成の30年だから。

平成元年に北海道の美瑛町で生まれた漣(菅田将暉)と葵(小松菜奈)は中学1年生の時に出会って、愛し合う。義父の暴力に悩む葵は、町を出て東京でキャバクラに勤めて大学に行こうとする。

21歳の時、2人は友人の結婚式で再会する。漣は美瑛で高卒後チーズ工場に勤め、葵はキャバクラで出会ったファンドマネージャーの水島(斎藤工)と住んで大学に通っていた。漣は職場の先輩・香(榮倉奈々)と結婚し、葵はリーマンショックで会社をつぶした水島と沖縄に行き、さらに1人でシンガポールに渡る。漣は香と娘を作るが、香はガンと告知される。

こんないかにもいかにもな波乱万丈の30年だし、時おり中島みゆきの音楽が流れるし、やたらに泣くシーンも多い。それでも見ていられるのは、会話を減らし、葵の死はすっきり済ませ、すっからかんになった葵がシンガポールでカツ丼を食べるシーンをじっくり撮ったりするような緩急の使い分けのうまさだろう。

菅田将暉と榮倉奈々の素の強さに比べると、小松菜奈が少し弱いかもしれない。私には、彼女が大学で経営学を学んだり、シンガポールでネイル・サービスで起業する姿がどこかしっくり来なかった。

幼い頃に葵にご飯を食べさせていたおばさん役の倍賞美津子、香の父役の永島敏行、漣の勤めるチーズ工場の社長役の松重豊などの佇まいがいい。それぞれの俳優の老いをそのままに生かして、見ていて嬉しくなった。見終わって、改めて全体を通したうまさに唸った。

私にとっての「平成」は仕事を始めて定年に近づいた30年だったが、9.11や東北大震災などいくつものニュースが挟み込まれて、見ていてとにかく懐かしかった。後年、「平成」を記録した映画になるのではないか。

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