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2020年9月15日 (火)

『パヴァロッティ』に吸い込まれる

ドキュメンタリー映画『パヴァロッティ 太陽のテノール』を劇場で見た。たぶんロン・ハワード監督でなかったら、見に行かなかったと思う。見ていて、パヴァロッティの歌声にまさに吸い込まれるような気分を味わった。

実は20代後半の頃、オペラのファンだった時期があった。大学院から最初の職場で働き始めた数年間、暇さえあればイタリアのオペラを聞いていた。ヴェルディやプッチーニの2枚組や3枚組を銀座の山野楽器で買ってはMDにダビングし、電車の中で聞いていた。当時山野楽器にはオペラ通の店員がいて、私が行くと寄って来て「このシノーポリ指揮の「ナブッコ」は絶品です」などとアドバイスをくれた。

ちょうどイタリア語の勉強をしていたので、「椿姫」や「リゴレット」などの一節は歌詞を原語で暗記していたほど。ただし歌は本当に下手なので(だからカラオケは昔から大嫌い)、あくまでコッソリ自宅で一人で歌うか、頭の中で歌っていた。コンサートにも何度か行ったが、どうもあの雰囲気が苦手でCDを聞く方が好きだった。

最初の職場は暇だしどこか気取った雰囲気だったのでオペラ好きは似合ったが、32歳の時に新聞社に移ってからは仕事がどんどん忙しくなり、職場の下世話な環境もあってオペラを聞かなくなった。それでも、有名なオペラの一節が映画で流れたりすると、今でも妙に興奮する。

さて今回見たドキュメンタリーは、ルチアーノ・パヴァロッティの歌手人生を正面から追いかけたもの。1961年のデビュー時の音声から始まって、ロンドンのコヴェント・ガーデン、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場やセントラルパークでのコンサートなどのハイライト映像をたっぷり見せる。

それらの映像に呼応して、最初の妻とその3人の娘、愛人のオペラ歌手、そして2番目の妻、何人ものマネージャー、レコード会社の担当者、劇場主、「3大テノール」を組んだプラシド・ドミンゴとホセ・カラーレス、一緒にコンサートをしたU2のボノなどが次々と出てくる。明るく、人生を楽しむパヴァロッティの生き方がじんじん伝わってくる。

何より、彼の歌声に何度も圧倒される。最後のプッチーニ「トゥーランドット」の「誰も寝てはならぬ」の一節は見終わっても何時間も脳に残っていた。あとで公式HPのプロダクション・ノートを見たら、すべてドルビー・アトモス用に歌と曲を多次元で再録音したという。たまたま東宝のドルビー・アトモスの劇場で見たが、大正解だった。しばらくは暇な時に、またイタリアのオペラを聞こうと思う。

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