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2020年9月14日 (月)

『わが敵「習近平」』に戸惑う

(また手違いで昨日2時間ほど出たが、手直しした)楊逸(ヤン・イー)著『わが敵「習近平」』を読んだ。この中国人作家(今は日本に帰化)は、外国生まれで初めて芥川賞を取ったので有名になった。私は受賞作の『時が滲む朝』を読んで面白かったので、その後数冊読んだ記憶がある。

数年前に彼女は私が教える大学の専任教員になったので驚いた。一度も話したことはないが、どこか気になっていた。今回、12月に私の学生が企画する映画祭が「中国を知る」となり、学生の1人はチラシのコメントをお願いした。

そうしたら6月末にこんな本が出ていて戸惑った。オビには「中国共産党の「大罪」を許さない」「中国人芥川賞作家が覚悟の告発!」と書かれており、まるでネトウヨを喜ばせる反中、反韓本のようだ。あの芥川賞作家がどうしたのだろうと思ったし、コメントは大丈夫かと不安になった。

さて読んでみると、見た目ほどセンセーショナルではない。各章の題名を書くだけで中身はわかる。1.武漢ウィルスは中国が世界に仕掛けた「戦争」だ 2.私の体験が物語る中国共産党の「非道」 3.五六の民族に五六の不幸 4.強欲な共産党が「世界支配」を目論む 5.中国人へ、覚醒のすすめ

一番おもしろいのは個人的な体験を語った2で、「なぜ私が、これほど中国共産党を批判するのかは、私自身が文化大革命によって悲惨な体験をしているからです。中国共産党の本質がわかるからです」と始まる。

「それは、私が五歳半のときでした。何の前触れもなく、「お前たちは農村に行け」と、共産党に命じられました。いわゆる下放です。/当時私の両親は、ハルビン市内おごく平凡な教師でした」。これが1970年1月。

「下放された先はハルビン市の北「蘭西県」というところでした。電気も水道もなく、窓もドアも枠があるだけ。そもそもあの頃、この農村地帯にはガラスそのものがありませんでした」「下放から三年たって、一九七三年の夏に、また急に「ハルビンに戻れ」という命令をもらいました」

「ごく普通に、幸せに暮らしていた一家が、ある日突然、その生活を追われて、地獄に放り出された。そして今度は、何の理由も告げず、また元に戻っていいという。しかし、それに対する説明はないし、誰がどういう経緯でそれを命じたのか、庶民にはわからないし、誰も責任を取ろうとしないのです」

「今回の新型ウィルス騒動でも、人々の行動の根底にあるのは、同じような中国共産党への不信感です」。たぶんこの本はこの一言に尽きている。さて映画祭へのコメントはどうなったのかなど、まだ書くことはあるので、後日。

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