『星の子』を楽しみつつも
大森立嗣監督の『星の子』を劇場で見た。予告編で、永瀬正敏と原田知世が新興宗教に心酔している夫婦を演じているのを見て、見たいと思った。それなりにおもしろかったが、どこか乗れないままに終わってしまった。
映画は永瀬と原田演じる夫婦に赤ちゃんが生まれるところから始まる。未熟児で病弱だったが、ある時から全身に赤い湿疹が出始めて治らない。父親が特別な水「金星のめぐみ」を勧められて娘の顔に塗ると湿疹は引いた。母はその過程を克明にノートにメモする。両親はその水を売っている宗教団体の熱心な信者になる。
15年後、中学3年生のちひろ(芦田愛菜)は、いつもその水を持って登校している。新任の数学の先生・南(岡田将生)に憧れて、母が使った10年ノートの余白に毎日南の似顔絵を描いていた。ある時、学校で遅くなったちひろを南先生は車で送ってゆく。自宅近くの公園で頭に水に濡れた布を被って儀式をしている両親を見て、南は「ヘンな人がいるから気をつけなさい」と言う。
幼い頃から両親が信仰している宗教には、ある時期までは子供は当然のごとく従うが、中学生の頃から疑問が出てくる。ちひろの姉はそうして家を出て行った。ちひろは友人からはおかしいと言われながらもまだ両親を信じようとしていたが、大好きな先生に言われて揺らぐ。
後半、両親と宗教団体の集会に行く場面がいい。宗教団体は大きな建物を持ち、何百人という信者が集まってくる。彼らはみんな人が良さそうで、まっとうな集団に見えてくる。人の渦に巻き込まれて両親と離れたちひろがようやく再会し、雪の積もった野原で親子三人で星を見るシーンが何とも奥深い。
両親、特に父を演じる永瀬正敏が、ちょっと病的で思い込んだらわき目を振らずに走る感じでぴったり。母の兄はどうにかしてちひろを両親から引き離そうと説得するが、それもまたまともに見える。もちろん南先生の言うことも。宗教をめぐる諍いは、誰もが正しいことをきっちり見せている。
この文章を書いているとおもしろかった気がしてきたが、宗教をめぐってどちらにも加担しない見せ方をするので、見ていてちょっとイライラした。告白すると、南先生が両親を「ヘンな人が」と言った瞬間に私の携帯電話が鳴った。普段は振動にセットしているし、映画を見る時は必ず機内モードにセットするのに、忘れていた。
私はすぐに劇場を飛び出して消して席に戻ったが、今一つ乗らなかったのは、そのせいかもしれない。大森立嗣監督は今年既に『MOTHERマザー』があった。少し作り過ぎではないかとも思った。
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