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2020年10月 7日 (水)

ユーチューブで見る『兄とその妹』

秋学期になっても、半分以上はオンラインでの授業を続けている。映画を専攻する学生はアマゾン・プライムの会員になり、こちらはその中から映画を指定しておき、見たことを前提に授業をする。戦前の映画だとユーチューブで実に多くの作品を見ることができる。

ある授業で取り上げたのは島津保次郎監督の『兄とその妹』(1939)。この監督は『隣の八重ちゃん』(34)という元祖ホームドラマはDVDになっているが、それ以外は『春琴抄 お琴と佐助』(35)くらいしかない。かつてVHSでは出ているのだが。

だれがどういう目的でやったのかわからないが、VHSや衛星放送を録画したものが何本もユーチューブにアップされていて、無料で見ることができる。島津作品も『兄とその妹』や『家族会議』(36)『浅草の灯』(37)などがあって驚いている。

『兄とその妹』は『隣の八重ちゃん』と並んで評価が高いので一度見たいと思っていたが、今回見て傑作だと思った。『隣の八重ちゃん』は本当にたわいない会話が楽しいホームドラマだが、こちらはそれに加えて日本の会社員生活が描かれている。

大企業の社員・間宮(佐分利信)は囲碁が好きで、重役(佐藤武)に夜遅くまで付き合っていた。彼は妻(三宅邦子)と妹(桑野道子)と住んでいたが、妹は派手なコートに帽子をかぶり、商社で英文タイプを担当するモダンガール。

商社にやってきた有田(上原謙)に気に入られて、誕生日には花が贈られる。有田は重役の甥だったが、妹は間宮にそのことを知らされて、兄に迷惑をかけると縁談を断る。一方間宮は行田(川村黎吉)を始めとした同僚の嫉妬が嫌になって会社を辞める。間宮は友人の会社に身を寄せ、妻と妹を連れて中国へ旅立つ。

すごいのは出世をめぐる同僚たちの嫉妬で、居酒屋で酒を飲み、喫茶店に集まって社内の噂話をし、出世が噂される間宮を何とか蹴落とそうとする。しまいには廊下で取っ組み合いの喧嘩まで始まるのだから、今の日本の会社でもありそう。これが監督のオリジナル脚本というからすごい。

最近コロナ後の「新しい生活様式」と言うのは、戦時中の日本に近づいているという指摘があるが、間宮や妹の日本的な配慮や縁故の世界を断ち切る毅然とした態度は、当時求められた「新しい日本人像」ではないか。そのうえ、間宮は妻と妹を連れて新天地、中国へ向かう。これは当時アメリカなどから経済制裁を受けていて大陸の資源が頼りだった日本の生きる道を示したのではないか。

1939年の映画なのに表向きは戦争の影はほとんどないが、全体の雰囲気に時代精神が感じられる。映像の状態がいまひとつなので、ぜひDVDで発売して欲しい。

 

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