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2020年10月22日 (木)

『82年生まれ、キム・ジヨン』映画版に泣く

韓国のチェ・ナムジュの小説『82年生まれ、キム・ジヨン』はここに書いたようにかなりおもしろかった。さて映画版はどうしようかと思っていたが、アジア映画通の友人、石坂健治さんとのメールのやり取りの中で評価していたので、見ることにした。女性監督の初長編というのも気になった。

結果としては、見てよかった。同じ韓国の女性監督の初長編『はちどり』ほど巧みではないが、主人公、キム・ジヨンの苦悩をまっすぐに見つめていてかなり好感が持てた。見ていて、いくつかの場面で泣いた。

小説は精神科医の記述で「キム・ジヨン氏は」と3人称で語る。通院中の話に始まって、彼女の幼少期に遡り、韓国で82年生まれのかなり成績のいい女の子がどのように生きていくかを淡々と語っていた。

映画ではその語りはなく、現在の精神的に参っているキム・ジヨンを常に描きながら、時おり幼少期や大学生時代に遡る。だからいつも目の前にチョン・ユミ演じるジヨンがいる。彼女はすべてに真面目で、一生懸命に取り組む。そしていつも男社会の厚い壁を実感する。

その彼女が何とか生きていけるのは、女性たちの連帯があるからだ。母が一番大きいが、自分のような人生を繰り返させてはいけないと父親に対してジヨンを守り、いつも励ます。未婚の姉も何かと頼りになる。そして会社を辞めても会う女性の同僚や先輩。チーム長だった先輩は、独立してからジヨンに働かないかと声をかける。

その女性たちの輪に精神科医も加わる。考えてみたら、小説では精神科医は男性だった。映画では女性で、映画の中盤でジヨンがやってきた時に、「ここまで来れたのなら、半分は治ったようなものです」と温かい声をかける。

男性たちは影が薄い。コン・ユ演じる優しい夫はいつも申し訳なさそうな顔をして手伝おうとするが、なかなかうまく運ばない。男性で育休を取ろうとさえするが、かえって裏目に出る。会社の上司は(少し前の日本のように)セクハラ発言が日常茶飯事で、同僚の男性は事なかれ主義。

一番笑ったのはセクハラ研修を受けた後で若い男性社員が「なんでこんな研修があるのかなあ。いっそ朝鮮時代に戻りたいよ」と言うシーン。朝鮮時代とは日本統治下で、もちろん当時の日本と同じく家父長制度がすべてを貫いていたのだろう。

一番泣いたのは、卒業式前で就職の決まらないジヨンに「家にしばらくいて嫁にでも行け」と言う父に母が怒りだした時。突然ジヨンの電話が鳴ると就職が決まった知らせで、みんなで祝う。終わり方も小説版と違って何とも嬉しくて、また泣く。

私は1961年生まれの日本の男だが、ジヨンさんに比べたらずいぶん楽な人生を送ってきたなと思った。家に帰って新聞評を見ていたら「朝日」に秦早穂子さんが「かく申す私、31年生まれ。人生、最後の季節に入り、よろけつつ、立っている」で締めくくった文章を書いていた。秦さんの人生はジヨンさんどころではなかっただろうと、思いをはせた。

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