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2020年10月11日 (日)

『フェアウェル』のウェルメイドに考える

中国系アメリカ人のルル・ワン監督『フェアウェル』を劇場で見た。「朝日」の映画評でアン・リー監督『ウェディング・バンケット』に比べながら絶賛していたから。「読売」や「日経」でも大きな扱いでほめていた。実際に見たら、それはいくら何でもあのアン・リーに悪いだろう、というレベル。

6歳の時に中国から両親と移住して25年、ニューヨークに住むビリー(オークワフィナ)は大好きな祖母ナイナイのことを心配していた。ある時、父(ツィ・マー)から祖母が余命3カ月で、従兄の結婚式を口実にみんなで祖母の住む長春に集まると聞き、彼女は両親の意見に逆らって参加する。

命が短いことを知らない祖母にビリーは真実を伝えようとするが、中国ではそれはしないものだと周囲に押しとどめられる。アメリカでは当たり前で、知らせないことは違法でさえあるのに。みんなが真実を隠したまま無事に式は済み、ビリーは両親と共にニューヨークへ戻る。

それだけの話だが、家族や親戚のさまざまな思いを情感たっぷりに描く。5分おきに東洋と西洋の違いがカリカチュアのように出てくる。写される中国の街は高層ビルに高級ホテルに豪華なレストランと、裕福な印象を与えるものばかり。

最近、中国映画と言えば、ジャ・ジャンクー、ワン・ビン、ビー・ガン、そしてディアオ・イーナンと、貧しさ、格差、暗黒社会、権力の腐敗などを見せる秀作が多いだけに、この能天気な中国肯定と安易な東西文明論には空いた口が塞がらない。

もちろんこの映画でもホテルのエレベーターが故障していたり、宿泊客の中年の成金が若い娘を連れ込んで遊んでいたりというマイナス面も見せるが、ユーモアとして受け止められるレベル。このくらいはあった方がリアルだし、アメリカ人にも受ける。

中国政府主催の中国映画祭や東京国際映画祭で、この種の中国映画が上映されることがある。この映画もそうだが、よくできた良質なメロドラマの中で中国が欧米とは少しだけ違う価値観を持つ先進国だということを見せるタイプの作品だ。監督はビリーと同じく中国生まれで幼い頃から米国で育ったというが、お金を出した中国資本に受け入れられつつアメリカ映画的なウェルメイドを目指した感じ。

映画を見て一番驚いたのが、結婚式にみんな平服で参加すること。新郎新婦はかろうじてネクタイにドレスだが、あとはみんな普段着でビリーは何とTシャツ。これは日本でも欧米でもない中国スタンダードなのだろうか。それから従兄ハオハオは日本人アイコ(水原碧衣)と結婚するが、式でなぜか2人が五木の子守唄を歌うのにもびっくり。

それから中国では写真を撮るときの「チーズ」の代わりに「茄子」(チィエヅゥ)と言うことも知った。映画が終わったら、60代後半の夫婦が「久しぶりにいい映画を見たね」と言っていた。映画とはそんなものである。とりあえず、この映画を評価した映画記者と映画評論家の名前は覚えておこう。

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コメント

初めまして。
私も結婚式のシーンに驚いて開いた口が塞がらなかった者です。
あれは『竹田の子守唄』ですね。
ルル・ワンは映画における文化的・民俗的バックグラウンドにデリケートな監督という認識でしたので、ちょっとガッカリ
でした。

投稿: 真紅 | 2020年10月15日 (木) 15時23分

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