『泣く子はいねぇが』に乗れなかった
自主映画出身の佐藤快磨(たくま)監督の初商業映画『泣く子はいねぇが』を劇場で見た。『おらおらでひとりいぐも』と同じく東北弁の題名が気になったし、それ以上にサンセバスチャン国際映画祭で撮影賞(月永雄太)でかつ是枝裕和監督が応援した映画というので期待した。
ところが、冒頭でピンと来ない。秋田の男鹿市でナマハゲが町中を回り、子供たちが本当に泣くシーンはいいのだけれど、主人公のたすく(中野大賀)が赤ちゃんを産んだばかりの妻のことね(吉岡里帆)に嫌われる理由がよくわからない。彼女がよくいる自分勝手な女にしか見えない。
ことねに一方的に「あなたとは無理」と言われておろたえるたすく。せっぱつまった彼は、ナマハゲの格好をしながら下半身を脱いで走り回るという奇行に出る。それは取材に来たテレビに流れてしまい、大騒動になった。
そして2年後、離婚したたすくは東京で孤独な生活を送る。そしてことねの噂を聞いて、秋田に帰って来る。このあたりから見ていてだんだん映画らしくなる。母を演じる余貴美子は飄々としていい感じだし、彼女がパチンコ屋でことねと会って話す場面はその間合いが秀逸だ。
たすくとことねの再会は見ていてつらいが、車の中での長い会話があったのでほっとする。どこまでもたすくを支える寛一郎(志波亮介)や不愛想だが実はたすくのことを考える兄(山中崇)が、見ていて救いになる。
最後にたすくは思い切った行動に出る。後半で「終わりはこれしかないな」と思った通りだが、それは的を外さず「心の叫び」がきちんと伝わってきた。見終わるとそれなりに見応えがあったが、やはり最初の「動機の弱さ」に入口でつまずいた気がする。
それにしても初商業映画でこれだけのキャストとを集められるとは是枝監督のサポートがあったとはいえ、いい時代になったと思う。冒頭にバンダイナムコやスターサンズやAOI PRO.や分福のロゴがずらりと並んだのだから。
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