東京国際とフィルメックスの間を彷徨う:その(6)
フィルメックスは既に土曜に終わり(私が4.5点をつけた『死ぬ間際』がグランプリ!)、東京国際は今日までだが私にとっては昨日でおしまい。まだ書いていない作品について触れておきたい。「東京プレミア2020」は32本あるが、結局見たのは13本(1本は事前試写)だから半分もない。
スペインのダヴィッド・マルティン・デ・ロス・サントス監督の初長編劇映画『マリアの旅』はなかなか味わい深かった。最近増えた「老人が突然目覚めて旅をする」パターンだが、この映画は芸が細かい。70歳前後のマリアはスペイン出身だが、ベルギーで夫と幸せな老後を過ごしている。心臓発作で入院し、同室のスペイン生まれのヴェロニカと仲良くなる。
ヴェロニカの容態が悪化して亡くなり、マリアは遺骨を持ってスペインへ向かう。ヴェロニカの母は見つからず、ようやく元恋人にたどり着く。そんな珍道中の中で巡り会う人々。感情を表に出さず、淡々と行動するマリアがいい。彼女の「変化」が見ていて嬉しくなる。衝撃はないが、劇場公開は十分可能。3.5点。
竹中直人、山田孝之、齊藤工共同監督の『ゾッキ』は、大橋博之の人気漫画『ゾッキA』『ゾッキB』の映画化らしい。さえない人々が出てきて、盛り上がらない話がえんえんと続く。見ていると時々おかしいし、味わいもある。去年までの「日本映画スプラッシュ」ならいいが、「東京プレミア」ではないだろう。東京国際はこの数年、あえてこうした珍品を好む。2.5点。
ポルトガル映画『モラル・オーダー』は、マノエル・デ・オリヴェイラやジョアン・セーザル・モンテイロなどの傑作のカメラマンとして知られるマリオ・バローゾの監督作品。そのうえその2人の監督の常連のマリア・デ・メデイロスが主演と言うから、かなり無理をして見た。
彼女は20世紀前半の富豪の妻で、若い運転手と駆け落ちをするのだが、監督本人による撮影はよくても演出が冴えない。NHKの大河ドラマのような大味な語りで、がっかりした。どうして1947年生まれの監督の作品が、若手が中心に見える「東京プレミア」なのかわからない。2点。
「ワールド・フォーカス」の『荒れ地』は今年のベネチアの「オリゾンティ」部門のグランプリだが、傑作。イランのアーマド・バーラミ監督の長編2作目というが、ただ者ではない。周囲に何もない荒れ地の煉瓦工場では、5つの家族が働く。
40過ぎのロトファラーはその地の生まれで、オーナーのボスの指令のもとにみんなを統率する。工場の売却がボスに宣言され、みんなは去ってゆく。絶望的な人々を緩やかに移動するカメラで捉えた映像に震えた。全編白黒でスタンダードサイズの禁欲的な画面が続く。これが『モラル・オーダー』の代わりに「東京プレミア」に出るべきだった。
そんなこんなで、東京国際は「東京プレミア」13本、「ワールド・フォーカス」2本、フィルメックスはコンペ3本、招待2本。ああ、疲れた。まとめは明日書く。
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