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2020年11月 7日 (土)

東京国際とフィルメックスの間を彷徨う:その(5)

朝起きて、急に予定を変えてフィルメックスのリティ・パンの新作を見たいと思った。ところがシャンテに行ってみたらそれは前日だった。慌てて六本木へ行き、東京国際のコンペで舩橋淳監督『ある職場』を見た。大半が白黒で議論ばかりの135分。

都心のホテル・チェーンの江の島にある保養施設に、若者を中心とした社員10名ほどがやってくる。上司にセクハラを受けた早紀を慰めるのが目的だったが、雰囲気はだんだんおかしくなる。それから2年前の早紀がセクハラを受けるカラーのシーン。半年後、再びみんなが保養施設にやってくる。

最初はみんなが疑心暗鬼の集団がなぜわざわざ集まっているのか理解に苦しんだ。明らかに早紀が苦しんでいるのに無神経な男もいる。どうして早紀は帰らないのかと。しかし事件の映像が出て、半年後に少しメンバーが増えてまた集まると、セクハラというものの日本的構造が鮮明に立ち上がってくる。

何人もの俳優が共同脚本として書かれているので、おそらく設定だけ与えて自由に話させたのだろう。白黒の画面から張り詰めた雰囲気が伝わって来て、日本の会社のセクハラの実態だけでなく、それをめぐる周囲の社員の微妙な反応なども伝わって来て陰鬱になる。

半分ドキュメンタリーのような感じやズームで人物に近づくカメラなどホン・サンスを思わせるが、こちらはとにかく闇があちこちにある。今までに見たことのない新しい映画にも思える。4点。ところで後半に出てくるマネージャーが牛原で、小津、五所、木下といった苗字があるのは冗談だろうか。

イスラエルのロイ・クリスペル監督『オマールの父』は、パレスチナの若い父親サラがイスラエルの病院で息子を亡くす場面から始まる。パレスチナに帰ろうとするが内戦のために検閲所は一時的に閉鎖されている。死んだ子供を抱いて右往左往するサラは、妊婦のイスラエル人ミリと知り合い、彼女との珍道中が始める。

「死んだ子供を連れて家に帰る」だけのワンテーマで113分はいささか長いが、サラとミリの奇妙な旅にだんだん味わいが出てくる。ミリの母が好きだったというフランスの歌も効いている。3点。

東京国際の「ワールド・フォーカス」部門のラヴ・ディアス『チンパンジー属』は、圧倒的だった。鉱山で働く若いアンドレスと中年のバルド、パウロの3人が鉱山での出稼ぎを終えて、フガウ島へ帰る。彼らの中にも確執があり、それは幻想のような闘いとなる。帰宅したアンドレスには悪夢のような仕打ちが待っている。

全編白黒で157分(この監督としては短い)、クロース・アップなしの固定ショットでえんえんと会話が続く。そこから浮かび上がる日本やアメリカの支配。フガウ島は日本軍が慰安所としてフィリピン各地から女性を集めて来ていたという。「俺もパオロもその息子だ」と笑うバルド。とすると、1990年頃の話だろうか。

彼の映画は時空を超えて人間存在を問う。点数などつけられるわけがない。

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