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2020年11月12日 (木)

『空に住む』に戸惑う

青山真治監督の『空に住む』を劇場で見た。東京国際映画祭やフィルメックスで忙しく、最近公開の映画を見ていなかった。『空に住む』を見始めた時、テレビドラマのような設定の安易さに戸惑った。これが青山真治の映画かと。あるいは映画祭でヘンな映画を見過ぎて自分の感覚がおかしくなったか。

直美(多部未華子)は、両親を亡くして叔父夫婦の世話で渋谷の超高層マンションに住み始める。まず、辰巳慎吾と美村里江が演じる叔父夫婦がいかにもお洒落な金持ち風で嘘っぽい。そこへ愛犬ハルとやってくる直美も何を考えているかわからない。

直美は郊外の小さな出版社に勤めているが、およそ編集者に見えない。社長も社員もどこかお遊び風。彼女は同じマンションに住むスターの時戸(岩田剛典)と偶然に知り合い、関係を持つ。時戸がまたおよそスターのオーラがなく、自分勝手で見ていていらいらする。そのうえ、直美はその関係を利用して時戸のインタビュー本を出そうと考える。これまた安易だし、最初のインタビューは内容がなさすぎだ。マンションでみんなが高級ワインばかり飲むのもヘンだ。

見ていて途中から、この映画はこの不快感を見せようとしていることに気づく。そうして見始めるとマンションの中で遠くにかすかに聞こえる風や列車の音が不気味に聞こえてくる。これはひょっとすると猫の視点から、人間の気持ち悪さを見せているのかもと。

直美は両親の葬儀でも泣けなかった自分が嫌だったが、自分の頼りにしていた猫も亡くなって呆然とする。マンションの管理人が柄本明で、死んだ猫の火葬をするのが永瀬正敏。ほんの数分の端役だが、明らかに直美の味方として彼女の不安や不満に共感する。

さらに後半、叔母は中身のない自分の生活を告白し、出産を控えた会社の同僚の愛子(岸井ゆき)はその父親が誰かを直美だけに話す。2人の女性から押し出されるように、直美は気持ち悪い世界から一歩踏み出す。

そんな感じで途中からはそれなにりおもしろく見た。だけど『EUREKA ユリイカ』(2000)を始めとして最近も『共食い』(13)でそのエロスとバイオレンスの凄まじさを見せた監督の新作としては、ずいぶん気が抜けた映画に見えた。50代後半になり、もはや流れに任せる境地なのか、あえて現代を捉えようと軽さを目指したのか。

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