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2020年11月30日 (月)

『The Crossing』の見せる中国の今

中国の女性監督、白雪(バイ・シュエ)の『The Crossing~香港と中国をまたぐ少女』を劇場で見た。予告編で中国の深圳から香港に通学する女子高生の話とわかり、見たいと思った。製作総指揮が田壮壮というのも気になった。

16歳のペイは母と深圳に住むが、香港のIDカードを持っていて毎日香港の高校に通う。親友のジョーと日本に旅行するために、スマホのケースを学校で売ってお金を貯めていた。ある時アイフォン本体の運び屋と出会って手伝うはめになるが、もらったお金は桁違いだった。次第に授業はそっちのけでのめり込む。

香港に住んで別の家庭がありそうな父親(リウ・カイチー)の存在や、ジョーの彼氏のハオとの接近とジョーとの喧嘩、深圳に住むワケありげな母との関係など、16歳のペイには悩むことが多い。それでも毎日を懸命に生きてゆく。日本に行って旅館で温泉に入り、雪を見て日本酒を飲むことを夢見ながら。

税関を通る瞬間のサスペンスが何度も訪れる。香港の高校の制服(水色のネクタイが可愛い!)を着たペイは全く怪しまれないが、それでも彼女の心臓は破裂しそうなのが伝わってくる。特に最後に腹や足に数十個のアイフォンを巻き付けた夜はたまらない。運び屋の怪しげな集団や女ボスの感じもフィルムノワールのよう。

終わりに「最近では税関の取り締まりが厳しくなってこうした運び屋は難しくなった」と中国当局への申し訳のような字幕が出るが、こんな映画が作られて中国で公開されているのだからすごい。ここにはいわゆる道徳は存在せず、闇の世界に足を踏み入れた少女の日常が描かれる。最初から雰囲気は香港映画、あるいは台湾映画。

母親は家に大勢の友人を連れてきて飲んだくれ、夜中に娘が帰って来ても全く気にしない。娘が香港でハオが教えた丘に連れて行き、母は「これが香港ね」とつぶやくシーンがいい。何となく、母の一生がそこに見える気がした。さて大人の世界を知ったペイは、これからどう育っていくのだろうか。そんなことを考えた。

 

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