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2020年11月10日 (火)

『私をくいとめて』が観客賞

12月18日公開の大九明子監督『私をくいとめて』が東京国際映画祭で観客賞を受賞したので、感想をアップする。実は映画祭の前にオンライン試写で見た。基本的にオンライン試写は見ないが、今回は時間が合わず、東京国際映画祭でやることもあって事前に見た。

大九監督のその前の『勝手にふるえてろ』(3年前の同映画祭で観客賞)は、同じく綿矢りさの原作だが、これは私は苦手だった。ところが今度はなぜかすっと入り込んでいった。主演のみつ子を演じるのんが良かったのか、ストーリー展開や演出が違うのか、はたまた私が変わったのか。

みつ子は31歳の独身ダメOLだが、会社勤務を続けている。彼女は自分の無意識の中に相談相手Aがいて、何かと相談する。最近は自分の会社にやってくる年下の営業の多田君(林遺都)に惹かれて、Aに相談中だ。ある時みつ子は近所の肉屋でコロッケを買う多田君と偶然に会った。それから2人は少しずつ近づいてゆく。

それだけの話だが、みつ子の脳内は毎日大騒ぎだ。多田君に自分が作った料理を渡したり、自宅で料理をご馳走したり、多田君にレストランに招待されたりするが、毎回前日から頭が壊れそうなほど気分が炸裂し、Aと相談する。

それだけで十分楽しいが、周りの女性たちとの会話もいい。会社の先輩のノゾミさん(臼田あさ美)は同じくらい妄想の持ち主で、「カーター」と呼ばれる不思議な男性社員(若林拓也)の後を追う。できる上司の澤田さん(片桐はいり)も実は優しい。学生時代の友人のさつき(橋本愛)はイタリア人と結婚してローマにいるが、みつ子は冬休みに会いに行く。

この女達の連帯を何とも柔らかな映像で見せてくれる。ノゾミさんは本当におかしいし、ローマに住むさつきの孤独に思わず共感してしまう。コロッケを売る店や近くの人々の優しい感じ、ローマ行きの飛行機の中で「くちびる」の文字が飛ぶ場面、アパートやホテルに入るときの真っ暗な一瞬とか、あちこちで繊細な感覚が光る。大瀧詠一の歌も妙にはまっていた。

普通に考えるとのん演じるみつ子は十分に可愛いからモテるに違いないのだが、その思考や妄想の三枚目ぶりを見ているとこれもありかもと思ってしまう。のんの顔を見ているだけで楽しい。まさに21世紀の映像で、現代の日本女性の生の叫びを聴いている気がして、嬉しくなった。

 

 

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