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2020年11月25日 (水)

『罪の声』の時代を思う

TOHOシネマズで予告編を何度も見て見ようと思ったのが、土井裕康監督の『罪の声』である。この映画は塩田武士による同名小説の映画化だが、その小説のもとになったのは、いわゆる「グリコ・森永事件」だった。この事件は今では知らない人も多いかもしれない。

これは1984年に日本を恐怖に陥れた事件だった。江崎グリコや森永製菓などの食品会社に対して、お金を出さないと食品に青酸ソーダなどの毒物を入れると脅迫する手紙を次々に送った。途中から犯人は手紙などで「かい人二十面相」と名乗り、このニュースは毎日テレビや新聞を賑わせた。「キツネ目の男」が怪しいと似顔絵が貼られた。

この事件ではグリコの社長が誘拐されたりしたが、結果として誰も殺されず、犯人たちは身代金を結局もらっていない。だからアナーキーな「誘拐犯」の部分があって、大学生の私は妙に好きな事件だった。

84年夏に1年間のフランスに留学を始めた時、大学開始前に義務付けられた語学講座でフランスの新聞を読んで議論する授業があった。そこでこの事件が取り上げられた。私はこの事件のアナーキー性を取り上げて反社会的な精神を褒めたが、ドイツ人やイギリス人やアメリカ人たちからなるクラスでは非難の嵐にあったことをよく覚えてる。みんな「最も卑劣な行為」と非難した。

さて、映画に戻ると、なかなかよく練られた脚本と抜群のキャスティングで142分、全く退屈しない。大阪の30代の新聞記者の阿久津(小栗旬)はお蔵入りの事件のシリーズを担当することになり、この事件を調べ始める。一方で同じ世代のテーラー、曽根俊也(星野源)は、父の遺品を整理して、自分の声が犯罪に使われたことを知る。

この2人が知り合い、最初は反発していた俊也も協力して二人三脚で調査を進めるというもの。かなりの数の人間に話を聞くため、見ていて時々わからなくなるが、英国に住む俊也の叔父にたどり着いて真相が解明される。

小栗旬も星野源もいい感じだが、それ以上に脇役や端役の周囲の人々がいい。新聞社の上司の古舘寛治や松重豊、同じように小さい頃の声を使われた不幸な男の宇野祥平、俊也の母の梶芽衣子、彼の叔父の宇崎竜童、父の友人の火野正平といった俳優たちが実に存在感を見せる。どんなシーンもきちんと撮影されているのがよくわかる。

あえて言えば、全体に台詞で説明しすぎかもしれない。話が複雑なのでそうせざるを得なかったのかもしれないが、もう少し人数を少なくして場面で見せてもよかった。それから宇崎竜童が元新左翼で英国で古書店を営む世捨人とは、ちょっと違うと思った。彼はまだまだ生々しかったし、インテリ崩れに見えない。

もう一つ、新聞社でまるで文化部はヒマな仕事で社会部が花形のように描かれている。確かに新聞社の中にそういうムードはあるが、短かったとはいえ元文化部記者としては違和感があった。

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