『わが生涯のかゞやける日』を楽しむ
国立映画アーカイブに行く用事があったので、ついでに吉村公三郎監督の『わが生涯のかゞやける日』(1948年)を見た。同じ監督の前年の『安城家の舞踏会』は授業でもよく取り上げるので、ほぼ暗記している。こちらはずっと昔に見たきりだったが、戦後すぐの山口淑子を見たいと思った。
中国人・李香蘭として満州映画協会に属し日中両国で有名だった女優が、敗戦後帰国して山口淑子として活躍を始めた最初の映画が『わが生涯のかゞやける日』。最近『支那の夜』の長尺版を国立映画アーカイブで見たばかりなので、さて彼女は戦後どんな顔で出ているのか見たくなった。
まず、1945年8月14日、青年将校の沼崎(森雅之)は平和主義者の大物を殺す。そこに小刀を持って現れたのが山口淑子演じる娘の節子だった。泣き悲しむはずの「悲劇の娘」なのに堂々と睨みつけ相手に傷を負わせる姿が輝いていた。
それから3年後、沼崎は暗黒街のボス・佐川の用心棒だった。佐川は表向きは「愛国新聞」の社長だが、佐川を演じるのが滝沢修なので笑ってしまった。『安城家の舞踏会』で華族で原節子の父を優雅に演じていたのに、ここまで悪党をやるとは。『安城家』で森雅之は原節子のニヒルな兄役だった。
あるいは佐川が節子に乗り換えて捨てるダンサーの女は、『安城家』で滝沢修の上品な愛人を演じた村田知栄子。安城家を買い取ろうとする成金を演じた清水将夫は節子の兄となり、戦前は自由主義者を迫害した検事だが戦後は節子の世話で佐川の新聞社でひっそり働く。
要するに、『安城家』から原節子を除いて山口淑子を加えてあとは同じ俳優たちが、貴族の没落ではなく戦前の過去を抱えたヤクザものたちを演じるという作り。原節子も山口淑子も高貴な生まれだが、戦後に没落する点が共通する。殿山泰司や逢初夢子らもきちんと出ているし、脚本も同じ新藤兼人。
こちらがおもしろいのは、山口淑子が森雅之と愛し合い、森がかつて父親を殺した男だとわかって一度は殺そうとするが結局は離れないこと。森が警視庁に自首する前に2人は濃厚なキスをして(これはGHQの指導だろう)、2人は皇居前の並木道を桜田門へ歩く。これまで殺人の過去に悩まされた森は自首することで、「今日はわが生涯のかゞやける日だ」とつぶやく。
過去を清算して未来に向けて歩くという点ではこの2本は共通しているが、やはり学生に見せるには『安城家』の方が筋もシンプルだし『桜の園』のような上流貴族の没落話はウケやすい。それにしても山口淑子の美人然とした輝きは日本離れしており、村田知栄子も逢初夢子も影が薄かった。
『安城家』に出ていなかった重要な俳優はこの映画の後半に出てくる新聞記者役の宇野重吉で、佐川や節子の兄を追い詰める。汚れ者ばかり出てくるこの映画で唯一影のない誠実な男だろう。もともと日本映画にはくわしくなかったが、俳優を考え出すと止まらない。
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