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2020年12月10日 (木)

『ミセス・ノイズィ』を楽しむ

天野千尋監督の『ミセス・ノイズィ』を劇場で見た。1982年生まれの女性監督と聞いて、見たいと思った。最初はあまり乗らなかったが、6カ月前に戻ったあたりからトーンが変わり、見終わるとたっぷり楽しんだ気分になった。

作家の真紀(篠原ゆき子)は、娘ができて郊外に引っ越す。執筆がスランプに陥ったところで、隣にいる中年女性・若田さん(大高洋子)が毎朝大きな音を立てて布団を叩くのが気になり始める。そのうえ、娘は忙しい母親を離れてその若田さんと仲良くなり始める。真紀のイライラは増し、弟の勧めで若田さんをモデルにした小説『ミセス・ノイズィ』を書き始まる。

これから半年後に戻って、今度は若田さんの視点で語られる。子供をなくし、それ以来心を病んだ夫に代わって若田さんは農家の出荷を手伝う。あら意外にまともじゃんと思ったところで、真紀の小説は売れ出し、それが何と悲劇へとつながってゆく。

途中からビデオを巻き戻すように「実は」と始まるあたりは、『カメラを止めるな』のようでもある。しかしスランプの女性小説家が子育てとの板挟みで苦しむ描写は相当にリアルだし、マンションの迷惑な隣人と喧嘩を始めるあたりもどこにでもありそう。

それがSNSの拡散とマスコミの増幅によって思わぬ方向に暴走してゆく展開は最初はありえないと思ったが、だんだん乗せられてしまう。見終わるといかにも現代的なドラマだったと思ってしまう。

全体のカリカチュアのような漫画調と細部のリアルさがほどよく交じり合い、最後にはSNSに踊らされる大衆とそれを利用して話題を増幅するモラルのない出版社やマスコミの嫌な現実を見せつける。そして最後はおとぎ話のようなハッピーエンドで締める。頭のいい監督があえて素人のように撮った快作(あるいは怪作)と言えよう。

実は銀座で空いた時間に見たが、かなり得した気分。天野千尋監督の次回作が今から楽しみだ。

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