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2020年12月26日 (土)

映画『自由学校』の寝る佐分利信

最近、ふと疲れて昼間に横になることがある。あちこち動き回って自宅に帰った瞬間に、急にふらふらとして15分ほど横になる。大学だと昼食後や授業の後に、椅子を2つ使って軽く寝る。そんな自分を見るようだったのが、渋谷実監督『自由学校』の佐分利信だった。

実は渋谷実という監督の映画はほとんど見ていない。かつて卒論で取り上げた学生がいた時に『本日休診』(1952)を見たが、戦後の混乱した風俗の描き方がカリカチュアのように見えて苦手だと思った。ところが最近、『渋谷実 巨匠にして異端』という分厚い本が出て著者から送られてきた。そうか、もう一度見てみるかと思った。

ところがDVDがほとんど出ていない。たまたま大学と自宅の中間にある名画座で特集をしていたので、時間が合う『自由学園』(1951)を見た。獅子文六の原作で吉村公三郎監督の同名映画と競作になり、同時期に公開されて共にヒットして「ゴールデンウイーク」という言葉を生んだことは、知識としては知っていた。

冒頭から驚いた。街を歩く佐分利信が「自由か」とつぶやく。すると「ふん」と鼻で笑う高峰三枝子が出てきて、その先には浜辺で踊る淡島千景と佐田啓二が写る。じいぶん無茶なつなぎだと思っていると、家でパジャマ姿で横になる佐分利信が、忙しげにミシンで縫物をする高峰三枝子に罵倒される。佐分利は会社を辞めたことを告白して高峰に出て行けと言われ、そのまま家を出る。

佐分利はホームレス達と暮らし始め、あちこちで横になる。一人になった高峰は10歳は若い佐田啓二を始めとして男たちにモテ始める。いろいろあって佐分利は警察につかまり、高峰は身元見受け人として迎えに行く。久しぶりに家に帰る佐分利は「絶対服従よ」と高峰に言われて家を、また家を出ようとする。

すると高峰は「うちにいて」と佐分利の足にすがりつく。すると佐分利は転んでしまって寝転がり、高峰も倒れる。それからしばらくたって夫婦は逆転する。高峰が働きに出て佐分利は家事をする。高峰が家を出ると、パジャマ姿になった佐分利は縁側にざぶとんを置いて横になる。終わり。

つまりは、横になりたくて仕方のない中年男の話だった。調べてみたらこの時の佐分利信は42歳で今の私よりずいぶん若い。しかし貫禄は十分で、万事に疲れて横になる感じがよく出ている。私はホームレス生活から見えてくる戦後の風俗よりも、この映画の冒頭と終わりの寝る佐分利信の姿にじんと来た。

ほとんどオネエ言葉を話す佐田啓二や言いたい放題の淡島千景らの「ネバ―、ネバー」「とんでもハップン」「アンファン・テリブル」「ミステーク」などの言葉も、温泉マーク(ラブホテル)やストリップの氾濫、風呂屋の3人のオカマなどの戦後風俗もおもしろかったけれど、寝る男ほどの衝撃はなかった。

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