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2020年12月 3日 (木)

『バクラウ』を楽しむ

ブラジル映画『バクラウ 地図から消えた村』を見た。全体の印象としては、インドネシア映画『マルリナの明日』に近いか。つまり土俗的な雰囲気の中で、虐げられた人々が復讐を果たす構造で、それがどこか西部劇のようなスタイルを踏んでいるから。

『マルリナ』は女の復讐だが、こちらは村人全員が戦う。その意味では『七人の侍』のようでもある。映画は「今から数年後」というクレジットと共に始まる。長老カルメリータの葬儀のために、テレサは給水車のトラックに同乗して故郷バクラウに帰る。そこには水道がないのだ。テレサのお土産は村で手にいらない医薬品だ。

葬式が終わると、次第におかしなことが起き始まる。給水車には穴が開けられ、ネットの地図からは村の名前が消えている。携帯が通じなくなり、奇妙な円盤が空を飛ぶ。その円盤=ドローンを操っているのは数人の英語を話す男女たちだった。

彼らは村人を見つけ次第、殺してゆく。そのトップを演じるのがウド・キアーで何を考えているのかわからず、最後まで強烈な存在感を見せる。村人たちも黙っていない。村を救うために帰ってきた若者も含めて、悪党たちを迎え撃つ。そのバイオレンスは西部劇風で、10個近い棺桶が運び込まれ、生首が転がる。

村人の中心にいる女性医師ドミンガス(ソニア・ブラガ)は実はアル中で、葬儀に酔って現れて悪態をつき、悪党のリーダーが来ると血染めの白衣で迎える。村人たちは戦いの前に小さな錠剤を呑む。最初に悪党を殺すのは、村のはずれになぜか裸体で暮らす中年男女。

まるで映画史(西部劇+ホラー)に文化人類学(『野生の思考』!)を足したような映画だが、それが実は強烈な政治批判につながっているからすごい。そのうえ撮影や編集はどこかヘタウマで、場面の切り替わりなどはずいぶん安易。

見終わると、それこそ『七人の侍』のようなカタルシスがある。これならシネコンでやっても十分行ける中身だが、カンヌの審査員賞でもブラジル映画で小さな村の西部劇風の復讐劇では、なかなか一般の関心は惹かないかもしれない。騙されたと思って見たら、ほとんどの人は満足はすると思うが。

監督はクレベール・メンドンサ・フィリオとジュリアーノ・ドルネレスだが、前者は前作『アクエリアス』(ネトフリのみ)も抜群だった1968年生まれの監督で、これが長編劇映画3本目。『アクエリアス』も本作も基本的には権力や資本主義に怒る庶民の話だが、今回はより土俗的な分、魅力が増している。どちらにもセックスの場面が自然に挟み込まれているのはブラジル的か。

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