『見るレッスン』の蓮實節を楽しむ:その(1)
この12月末刊行の蓮實重彦さんの新書『見るレッスン 映画史特別講座』を読んだ。一足先に入手したのは、この本の聞き手の石飛徳樹・朝日新聞記者から送ってもらったから。まず、この組み合わせに笑った。
映画の好き嫌いが激しく、そのうえ難解な文章を書くハスミさんと、映画のみならず人生一般においてストライクゾーンが甘く、誰にでもわかる文章を書くトビさんは会話が成り立つのか。それについては実は心配がなかった。ハスミさんは、自分と反対のタイプの男性を好むのは、これまでの経験で何度も見ていた。私自身もその1人か。
この組み合わせが功を奏した。そもそもハスミさんが新書を書くなんてありえない。本人の「あとがき」にもある通り、「これという確かな理由もないまま、わたくしは「新書」というものだけは書くまいと、長らく思っておりました。それにふさわしい原稿の文字数というものが、なぜかあまり好きになれなかったからです」
この本は石飛さんのテーマ設定に合わせて、ハスミさんが映画の見方について重要なことをすらすらと話している。現代のハリウッド映画に始まり、「第三の黄金期」と名付ける日本映画の現在について、そして映画の誕生から現在までの映画史を振り返り、ドキュメンタリーについて、ヌーヴェル・ヴァーグについて、カメラマンなどの裏方について語る。
私は10年と少し大学で映画史や映画分析や映画ビジネスを教えているが、ハスミさんを取り上げることは少ない。文章が読みづらく、学生には難しすぎるから。それでも2、3割の学生はどこからか(例えば黒沢清監督との対談から)蓮實重彦氏の本に興味を持ち始める。1割くらいは文章まで似てくる。
そんな学生には自分とハスミさんとの交流や仕事を語ることもある。しかしこれからは、1年生のすべての学生にこの本を読ませればいい。この本にはどこにも難しいところはないから。映画の細部を見なさい、映画史の名作に学びなさいと言っても学生は聞かないが、この本を読めば黒沢清監督や濱口竜介監督の作品が映画史とひとつながりであることがわかる。
あるいは東京国際映画祭がなぜダメかも2頁半でわかる。あるいは日本映画は監督が強大な編集権を握る世界でほとんど唯一の存在であることも、偉大な監督には必ずすばらしい撮影監督がいることも、日本映画にはプロデューサーが必要なことも。これでは大学1年生が新書一冊で何でもわかってしまうではないか。
それにしてもハスミさんの映画の見方は厳しい。石飛記者に比べて自分はずいぶん守備範囲が狭いと思っていたが、スコセッシも深田晃司も否定するハスミさんには驚いた。この本については次回中身を論じる。
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