『狩り場の掟』に唖然
国立映画アーカイブにまた行ってしまった。「中国映画の展開」で見たのは、田壮壮監督の長編デビュー作『狩り場の掟』だが、いろいろな意味で唖然とした。この監督は『青い凧』が中国で上映が禁止されたにもかかわらず1993年の東京国際映画祭ではグランプリを取ってしまい、話題になった。
彼は『青い凧』以降10年間撮影を禁じられたが、その後の『春の惑い』(2002)や『呉清源』(2006)は過激さは影を潜め、澄んだ境地というか、枯れた感じの美を目指しているように思えた。
『青い凧』は謎の映画だったが、映像美が強く印象に残っている。当時は映画通はみな陳凱歌や張芸謀よりすごいと言っていた。それ以前は『盗馬族』(86)も強烈だったから、最初の『狩り場の掟』はどんなものかと思った。
冒頭に狩り場の掟が出てくる。成吉思汗の時代に決められたもので、他人が取った獲物を横取りしてはならないとか、獲物はまず親しい人に渡すとかの5つの掟。始まってまず驚いたのは、吹き替えだったこと。モンゴル語(おそらく)で話した後にいかにも吹替え調の中国語が聞こえる。それだけでずいぶん嫌な感じがする。
次に驚くのは動物を殺す残酷なシーンが続くこと。ジャン・ルノワールの『ゲームの規則』の狩りのシーンとは比較にならないほどリアルでかつ長い。鹿が銃に倒れ、兎が犬に噛まれる。羊を狼が襲う。
冒頭でジリガラという青年が他人が撃った鹿を盗んだと非難されるシーンでは、村長はその鹿の首をみんなの前で切って、見せしめのために柱に刺す。ジリガラはその前で懺悔をさせられる。最後はこれと同じことをジリガラがやるのだが、そこに至るまでがよくわからない。
長いカットが多く、切り返しはない。突然アップになる。ジリガラの兄は村長を恨んで、自分の狼に村長の羊を襲われる。台詞は少なく、ロングショットで大草原に暮らす人々が描かれる。ある種の復讐のようなものがこもっているのはわかるのだが。映画は79分で終わり、これは何だったのかと唖然。やはり田壮壮は天才である。
関係ないが、先週末に始まったフランス映画『ハッピー・バースデー 家族のいる時間』は、パリで2019年9月に見ていたことを思い出した。セドリック・カーンが監督で出演もしているが、カトリーヌ・ドヌーヴ演じる母のもとに家族が集まるのは是枝裕和監督の『真実』の別バージョンという感じ。フランス人の嫌な感じがもっと出ていて、かなりおもしろい。
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- 『動物界』に考える(2024.11.12)
- 少しだけ東京国際:その(5)(2024.11.06)
- 少しだけ東京国際:その(4)(2024.11.05)
- 少しだけ東京国際:その(3)(2024.11.04)
コメント