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2021年1月25日 (月)

『春江水暖』を楽しむ

最近中国にハマっていることもあり、2月11日公開の中国映画『春江水暖~しゅんこうすいだん~』を試写で見た。グー・シャオガン監督の第一回長編だが、カンヌの批評家週間でクロージング、東京フィルメックスで審査員特別賞、仏「カイエ・デュ・シネマ」誌の2020ベストテンで7位。

最近の中国の若手監督はおもしろい。去年見たなかでも『象は静かに座っている』のフー・ボー、『鵞鳥湖の夜』ディアナ・イーナン、『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』のビー・ガンなど前衛的な映像派が揃っている。

今回の『春江水暖』は、これらに比べたらわかりやすいし、泣ける。その意味では年長のワン・シャオシュアイ監督の『在りし日の歌』やフォン・シャオガン監督の『芳華-Youth-』を思わせる。しかしドキュメンタリーを思わせる即興性や壮大な長回しなど、映像の新しさも備えている。

映画は、老母の誕生会で始まる。4人の兄弟やその孫たち、親戚が揃う。長男はその会場である「黄金大飯店」を経営しており、得意そうに地元のスズキの蒸し料理を出す。いかにも幸福一杯の感じだが、その陰で兄弟たちはお金の貸し借りの話をしている。祖母は突然倒れ、救急車が来て大騒ぎ。

母の退院後、長男が引き取るが認知症が始まっていて苦労する。その娘グ―シ―は母親の勧める男ではなく、安月給の教師のジャンとつきあっている。次男夫婦は漁師でほとんど船上で暮らしているが、持っているアパートが再開発で取り壊されるため、立退料をもらって息子にアパートを買おうとする。

三男は息子がダウン症で苦労している。賭博で金をなくして逃げるが、やくざたちが長男のレストランを滅茶苦茶にしにくる。四男は38歳で未婚だが、見合いをして何とか結婚しようとする。

そんな一家の夏から秋、冬、春の一年が描かれる。時々、驚異的なショットがある。冨春江でグ―シ―とデートするジャンは、泳ぐ自分と川べりを歩くグ―シ―と競争しようと提案し、泳ぎ出す。カメラはこの2人を追って動くが、これがジャンが陸に上がるまで何分も続く。

泣けるシーンもあちこちにある。一番は長男夫妻が次男夫妻や四男と集まっている満月の夜に、知人がグ―シ―とジャンを連れてくる場面。長男の妻はジャンの顔を見ようとせず、追い出す。そこに認知症の母が現れて長男の妻を説得する。あえて中国らしい光景を見せるシーンも多い。開発が進んでも、山水画のような風景は不滅だといわんばかりに。

終わりに「一の巻 完」と出る。150分の映画だが、まだまだ続ける気なのだろう。プレス資料を読んで、出ている俳優が全員監督の親戚や友人であることを知る。どうりでリアルだが、よくあのような演技ができたものだと思う。またまた中国に天才現る。

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