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2021年1月13日 (水)

『大いなる道』の裸体をめぐって

国立映画アーカイブの「中国映画の発展」で、孫瑜監督の『大いなる路』(1935)を見た。これまた中国映画史で必ず出てくる作品だが、これまで見ていなかったと思う(たぶん)。いわゆるサウンド版だが、隠された抗日意識の表象と同時にその裸体の表現に驚いた。



冒頭に映画は道路工事で歌いながら働く若者たちを見せる。みんな上半身裸で筋肉隆々だ。それから妻と乳飲み子を連れた男が出てくる。妻が倒れる。「三年後」、男は小さい子供を連れて歩く。「十年後」、子供は中学生くらいで老いた父が倒れる。「二十年後」、みんなと騒ぐ青年が出て来て、「金哥」と呼ばれる。

わずか1分ほどで20年の時間の経過を見せる。それから金哥を中心に5人の若者が遊んでいるが、金哥は「内地に国道を作ろう」と言い出しみんなが賛同する。「外人が支配する都市を捨てて、内地に国道を作り、軍の役に立てよう」ということで5人以外にもどんどん若者が集まってくる。

彼らが食事をする店には、元旅芸人の茉莉と店主の娘の丁香がいる。2人ともみんなの人気者で茉莉は歌がうまく、丁香は魚のあんかけを作るのが得意だ。茉莉は歌いながら踊り、きれいに剃った脇の下も何度も見せる。彼女たちは金哥たちが川で全裸で泳いでいるのに出くわし、大笑いする。

地主の胡は道路を作る若者たちに「敵は強い、逃げた方がいい」とそそのかし、金哥たち5人の自宅に呼んで接待し、お金を渡す。しかし彼らは拒否して破り捨てたため、地下牢に閉じ込められてしまう。そで筋肉隆々の男たちは裸で鞭で打たれる。彼らがいないことを心配した茉莉と丁香は胡の屋敷に入り込み、接待をすると見せて地下牢へゆく。

茉莉が投げたハサミでようやく縄を解いた金哥は無事逃げ出す。そのころ丁香の知らせでやってきた労働者や軍隊が胡の屋敷に詰め掛けて、胡とベッドにいた茉莉を救う。みんなは再び歌いながら国道建設に励む。

これで終わりかと思ったら突然飛行機がやってきて爆撃が始まり、金哥も茉莉も死んでしまう。店の主人が丁香に「死んでいない」と言うと、金哥たちは二重写しで立ち上がって歩き出す。茉莉の顔のアップで映画は終わる。

もちろん突然やってきて無残に爆撃をする飛行機は日本軍のものだろうが、映画では全くわからない。あくまで「敵」として出るだけだが、この終わりはあまりに強烈で、その蘇りも含めて強い印象を残す。

それから金哥たち若者のムキムキの身体の誇示は何だろうか。ナチスドイツが考えたような肉体の讃美か、あるいは19世紀末からの海水浴やスポーツの流行に連なるモダニズムか。この監督の映画をもっと見たい。

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