『聖なる犯罪者』に驚く
ポーランド映画『聖なる犯罪者』を劇場で見て驚いた。ポーランドの田舎の実に地味な話なのだが、115分画面に吸い付けられるように見た。監督はこれが3作目というヤン・コマサだが、これまで見たことがない。
冒頭は刑務所が出てくる。その中で青い目をきらりとさせる青年ダニエルが目を引く。彼は仮出所をして、小さな村の製材所で働くことになっていた。ロックや煙草が好きな普通の若者だが、刑務所にいる神父の話に惹かれる。自分も神父になりたいと申し出るが、前科者はなれない。
製材所の近くでたまたま入り込んだ教会では、司祭がアル中で入院することになった。彼の手伝いをしながら、入院中は代役を務め始める。見よう見まねだったが、それは思いのほか村人の共感を呼び、7人が亡くなった交通事故の真相を求めようとする。
もちろん映画では、こういう「なりすまし」は後半に必ず正体が暴かれる。この映画もそうだが、そのあたりがあえて複雑に作られていて、見ていて怖くなってくる。誰が正しいのか、だんだんわからなくなる。
まずダニエルを演じる若い俳優が抜群に魅力的だ。病的な感じの美青年で、宗教の持つ聖なる部分と狂気を体現する。村人たちは見事に彼の言葉に動かされる。権力者である町長さえも、彼の前ではひざまずく。
全体は青い色調で、ほとんど楽しみのない暗い村の日常がなぜかしら聖なるものに見えてくる。最近の映画だと中国映画でも現代の資本主義が顔を出すが、この村はダニエルがたまにスマホを見たり(懺悔の受け方を調べる!)電話がかかってくる以外は、およそ現代文明がない。この停滞感のなかで、教会が大きな力を持つ。明るい映画ではないが、確実に心に突き刺さる秀作。
さて、最近公開の映画だと公開中のイラン映画『ジャスト6.5』は1昨年の東京国際映画祭で見たが、実にオリジナルな作品だった。22日公開のチベット映画『羊飼いと風船』は1昨年のベネチアで見たが、傑作。
さらに話題は変わるが、『東京物語』のカラー着色版がアマゾンプライムで公開されているとフェイスブックで騒いでいる人がいた。確かに見ると、ほかにも『麦秋』『大阪の宿』『一人息子』『祇園の姉妹』が「然色映画」として公開されている。これは絶対にいけない。そもそも「然色映画」とは何か。
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