« 年末に見た『Mankマンク』 | トップページ | 「琳派と印象派」展に考える »

2021年1月 5日 (火)

20年前はイタリア年だった:その(1)

私が新聞社時代に映画祭を企画していた時に、大きな節目が2つあった。1つは1995年の映画生誕百年で、もう1つは2001年の「日本におけるイタリア年」。それぞれ、フランスとイタリアの映画界と人脈を深めるきっかけとなった。

今年がその「イタリア年」から20年目だとふと気づいたのは、安売りDVDでイタリア映画を見たから。コスミック出版から「イタリア映画コレクション」として10枚組のDVDセットが4種類発売されているが、そこに「知られざる傑作」が紛れ込んでいるのを知ったのは、知人のフェイスブックから。

定価でも税込みで2000円を切る(アマゾンだとさらに安いセットも)から1本あたり200円以内だが、どれもかなり画質がいい。かつての主に16㎜から作られた500円DVDとは大違い。

その4セットのうち、何としても見たいと思ったのが『ミラノの奇蹟』をメインに扱ったボックスの『愛と殺意』と、『越境者』がメインの『ナポリのそよ風』の2本。ともに「日本におけるイタリア年」の主要企画「イタリア映画大回顧」(@フィルムセンター=現・国立映画アーカイブ)で上映されたローマのチネテーカ・ナチオナーレ所蔵55本に含まれた作品だ。

ミケランジェロ・アントニオーニの『愛と殺意』(1950)は劇場未公開で、かつてこの題名でVHSが発売されていた。「イタリア映画大回顧」では私の主張であえて原題Cronaca di un amoreを直訳して「ある愛の記録」とした。その後DVDになることがなかったから私は20年ぶりに見たが、当時ルチア・ボーゼの美しさに圧倒されたことを思い出した。

最初にミラノのスカラ座に白い毛皮のコートで現れた瞬間からうっとりしてしまう。ミラノの金持ちと結婚した若妻パオラ(ルチア・ボーゼ)がかつての恋人グイド(マッシモ・ジロッティ)と再会してよりを戻し夫の殺害を企てる話だが、私は肝心なことを忘れていた。

冒頭に目つきの悪い私立探偵が出てきて「パオラを調べるために出身地のフェラーラに行ってくれ」と言われるシーンがあって、最初はこの探偵の調査から始まるのだ。パオラが出てくるのはしばらくしてからだし、最後に夫が自動車事故を起こすのは探偵の調査の結果妻の不倫を知ってショックを受けるからだった。

この探偵の構造もアントニオーニの生地でもあるフェラーラもすっかり忘れるとは。当時は確かにスクリーンで2回見たはずだが、19歳のルチア・ボーゼに夢中になって忘れてしまったのだろう。彼女は毎回違う服で登場する。下着姿でマッシモ・ジロッティに抱きつく場面は今見てもワクワクする。

今回見て思ったのは、ロケで撮られたミラノの街の寂しさだ。無人の風景が点在しており、「愛の不毛」の監督は最初からこの雰囲気を作っていたのだ。「イタリア映画大回顧」では大監督は2本選んだが、アントニオーニはこれと有名な『情事』だった。イタリアのチネテーカ所長、アドリアーナ・アプラ氏のリストに日本側から何度も注文をつけたのが懐かしい。

|

« 年末に見た『Mankマンク』 | トップページ | 「琳派と印象派」展に考える »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

映画」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 年末に見た『Mankマンク』 | トップページ | 「琳派と印象派」展に考える »