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2021年1月 9日 (土)

『深夜の歌声』再見

国立映画アーカイブの「中国映画の展開」で馬徐維邦監督の『深夜の歌声』(1937)を見た。戦前の中国映画の傑作として名高く、たぶん竹橋時代のフィルムセンターで見た記憶があるが、さっぱり忘れていた。中国人留学生に聞くとやはり「すごく有名です」と言う。

再見した感想は、物語は特に前半がかったるいし編集の技術もかなり雑だけれど、中盤に「怪人」が顔を出してからはかなり盛り上がった。そのうえ、明らかに抗日運動的な要素を含んでいて興味深い。

映画は「民国15年」=1926年が舞台であることが最初の公演告知でわかる。つまり5.30事件の翌年で、抗日というより反帝国主義運動が盛んになった時代を舞台にして、実は映画が作られた1937年当時の抗日運動を暗に描くという手法である。

中心は、若手俳優の孫小鴎(施超)と10年前に歌手だった宋丹萍(金山)の2人だろう。孫小鴎が属するエンジェル劇団が改装寸前の古い劇場に到着する。孫小鴎は歌劇「黄河之恋」を練習するがうまくいかない。どこからか美しい歌声が聞こえてくると思ったら、マントを頭に被った男だった。彼に教わって孫小鴎は無事に「黄河之恋」を歌えるようになる。

その男にお礼に行くと、彼はマントの下の自分の醜い顔を見せてこれまでを語る。彼は10年前に歌手として有名にだった宗丹萍だった。その3年前に革命家・金として活躍していたが、その身を隠して歌手になった。宗丹萍は地主の娘、李暁霞(胡萍)と愛し合うが、嫉妬した地元の金持ちの湯俊(顧夢鶴)に硫酸をかけられる。恋人にその顔を見せられない宗丹萍は死んだと李小鴎に伝え、彼女は気が狂う。

宗丹萍の願いは孫が自分のかつての恋人の世話をすることだったが、孫小鴎には同じ劇団に恋人・緑蝶(許曼麗) がいた。湯俊は緑蝶にも手を伸ばすが、相手にされず殺してしまう。孫小鴎は湯俊に戦いを挑み、復習を果たす。一方、宗丹萍は村人たちに怪物と追い立てられて殺される。

結局のところ、宗丹萍が望んだ通り孫小鴎は李暁霞と仲良くなるが、いくら何でも展開に無理があった。それでもおもしろいのは、宗丹萍から孫小鴎に引き継がれる自由を求める心が歌として現れることや、硫酸によるあばた顔でこっそり劇場に住んで歌を歌って李暁霞を慰める宗丹萍の生き方がフランケンシュタインなどのホラー映画を思わせることだろう。

全体にクラシックの有名曲が多すぎるほど使われている。たぶんアメリカのトーキー初期のミュージカルやホラー映画をたくさん見て作られたのだろう。劇場に潜む怪人というテーマ自体が映画『オペラの怪人』(1925)を始めとして西洋から来たものだし、金山演じるマント姿の怪物はいかにも西洋風だ。脚本も編集も難はあるが、それでも見せきる迫力がこの映画にはある。

そういえば、2人の男性の恋人役を演じる胡萍も緑蝶も私には魅力的に見えなかった。美の基準が違うというのではなく、単にどこにでもいる女性に見えたのだが。調べてみると胡萍は相当に有名な女優らしい。もう1つ、この映画には続編があって、かつて旧フィルムセンターで見た記憶があった。

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