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2021年1月31日 (日)

『本気のしるし』をようやく見る

深田晃司監督の『本気のしるし 劇場版』をようやく映画館で見た。去年の「開催されなかったカンヌ」でオフィシャル・セレクションに選ばれていたが、10月の公開時に時間が合わずに見過ごしていた。最近また東京で上映があり、監督本人からのBCCメールで慌てて見に行った。

いやあ、妙な映画だった。最初は、現実なら絶対避けたいような困った女に主人公が優しくするのを見てイライラしたくらい。実際にこうした「ちょっとかわいいが関わったら大変な女性」はよくいるけど、映画の中心になるキャラクターではない。だから最初の30分くらいは「嫌な感じ」が渦巻いていた。

映画は232分で4時間近い。1時間近くたってから、次々にありえない人々が登場し始めて、これはヘンな人たちの物語なのだとわかり、少しずつその世界に入ってゆく。主人公は花火やおもちゃの会社で働く辻(森崎ウィン)。コンビニで出会った怪しげな女、浮世(土村芳)の命を救ったことから、彼女を放っておけなくなる。

真面目な営業マンの辻は、実は会社の女性の先輩・細川(石橋けい)と関係を持ち、彼女は辻のマンションによくやってくる。一方、後輩の藤谷(福永朱梨)にも好かれて関係を持っていた。そんななかに浮世が闖入し、大混乱。そうか、誰も断れずモテる男の話かと思いきや、そこに浮世の夫という男・葉山(宇野祥平)が現れて唖然とする。

さらに浮世はかなり変わったヤクザの脇田(北村有起哉)に借金をしており、辻は彼女を助けようと脇田に金を渡す。このあたりからががぜん面白くなったところで、前半終了で休憩。

後半、人妻の浮世とかつて心中を図ったというIT長者の社長・峰内(忍成修吾)が登場するに及んで、奇人変人の物語は極点に達する。峰内は自分の会社に辻をヘッドハンティングしようとする。一方で先輩の細川は結婚を迫るし、藤谷も負けてはいない。それから1年後、さらに3年後が描かれる。その展開に空いた口が塞がらない。

ほとんど荒唐無稽な転落の物語で、実際に見ていて何度も笑ってしまうが、ふと怖くなる。辻が部屋に飼うザリガニとその水槽の水音、街の中で聞こえるヘリコプターの音、峰内が浮世と過ごす海辺のホテルの花火など、とりまく風景と音が人間存在の危うさというか、根源的な不安を掻き立てる。

私は知らなかったが、これは同名コミックが原作という。いつもオリジナル脚本の深田晃司監督が、原作があるゆえに新たな境地を切り開いたと思う。俳優がみんな実に生き生きしていて、先輩女性役の石橋けいなど本当にいそう。去年見ていたら、『スパイの妻』と共に邦画のトップを飾る秀作だった。

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コメント

普通の人の生活に、奇妙な人間が闖入してきて、日常がめちゃくちゃに破壊されるという展開はとても深田映画っぽいですね、と深田監督にお話ししたら、「この原作は20年くらい前に読んでいて、大好きだったので、自分の作風がこの原作に影響を受けているのかもしれません」とのことでした。とても深田的でありながら、漫画原作ものを手掛けたことによる新しい境地、という感じが素晴らしいと思いました。

投稿: 石飛徳樹 | 2021年1月31日 (日) 10時21分

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