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2021年1月15日 (金)

『チャンシルさんは福が多いね』に思う

キム・チョヒ監督の『チャンシルさんは福が多いね』を劇場で見た。去年の『はちどり』や『82年生まれ、キム・ジヨン』と同じく、韓国女性の第一回監督作品というので興味を持った。その2作ほどのインパクトはないが、なかなか洒落た作品だった。

冒頭、スタンダード画面で小津風のドンゴロスの布にクレジットが出てくる。監督を囲む宴会なのにショパンの葬送行進曲が大音響で流れて、監督が急死する。そこから40歳女性のチャンシルさんの多難な生活が始まる。

映画プロデューサーとして、今日まで映画のことしか考えてこなかった。結婚もせず、子供もおらず、家もない。映画会社の女性社長からはあの監督が死んだらあなたには何もないと言われて落ち込む。丘の上のアパートに引っ越すと、無遠慮な大家さんがいる。若い女優の家で家政婦のバイトをすると、その女優のフランス語の先生・ヨンがいい感じ。

35歳のヨンと日本風の居酒屋に行き、「小津安二郎の『東京物語』が一番好きだ」と言うと、男は「退屈だ。クリストファー・ノーランの映画がいい」という。彼女はレスリー・チャンが好きだと言うが、ある日自分のアパートの隣の部屋にチャンに似た(よく見ると似ていない)下着姿の若者が出てくる。

チャンシルはヨンに会うたびに心が弾み、ある日会いに行く時に張り切って2人分のお弁当を作って行くが、「お姉さんと思っている」と言われてしまう。若い女優や大家さんやレスリー・チャンの幽霊ととんちんかんな毎日を過ごしながら、チャンシルは何とか生きてゆく。

見ながら、こんな女性は日本にたくさんいるなあと思った。もはや日本と韓国はほぼ同じ世界になったのだと実感する。ただし日本には40歳女性のどうでもいい話を、明るくオフビートのコメディタッチで描いたこんな映画はない。韓国映画といえば、ポン・ジュノ監督も含めてある種のどぎつさというかコテコテ感が特徴だったが、こんな映画も出てきたことに驚いた。

監督のキム・チョヒは今年46歳で、長年ホン・サンス監督のプロデューサーをしてきたというから、チャンシルは分身だろう。彼女を演じたカン・マルグムが実にいい感じだった。ホン・サンスの映画は物語は違うが、オフビートなタッチは確かに似ている。日本の女性、特に40歳前後がこの映画を見てどう思うか知りたい。

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