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2021年2月 8日 (月)

『キング・オブ・シーヴス』を楽しむ

もともと銀行強盗の映画は好きだ。平均年齢60歳以上というギャング集団が今から5年前に実際に起こした事件をもとにした映画だと知って、『キング・オヴ・シーヴス』を劇場に見に行った。そのうえ、そのボス役がマイケル・ケインなのだから。

長年宝石強盗として有名だったブライアン(マイケル・ケイン)は、若い友人のバジル(チャーリー・コックス)からロンドンの宝石街「ハットン・ガーデン」の金庫襲撃を持ちかけられる。愛妻が亡くなり、その葬式で再会した泥棒仲間にこの話を持ち掛け、具体化してゆく。

テリー(ジム・ブロードベント)、ケニー(トム・コートネイ)、ダニー(レイ・ウィンストン)、カール(ポール・ホワイトハウス)、ビリー(マイケル・ガンボン)といった仲間が集まるのはいいが、トイレが近かったり、現場で漏らしてしまったり、見張りのはずが居眠りをしたり、耳が遠かったりとおかしい。出てくる俳優がみんなどこかで見たことのある長いキャリアの持ち主揃いだけに、そのボケぶりが楽しい。

そのうえ、途中からは犯罪の中心だったブライアンが下りてしまうし、手伝い役のカールもいなくなる。そのうえ犯罪が成功してからはその取り分をめぐってブライアンも含めて内輪もめが始まっていよいよグダグダな感じになる。その分、ロンドン警視庁は緻密な操作から彼らを割り出し、逮捕へと着々と進めてゆく。

前半はとにかく目まぐるしく場面が移り変わるし、5、6人が入れ代わり立ち代わり出てきて目が舞う。ようやくそれぞれの個性や癖がわかり始めたところでもう逮捕。108分があっという間に過ぎた。

監督のジェームズ・マーシュはドキュメンタリー『マン・オン・ワイヤー』(08)が実によかったし、『博士と彼女のセオリー』(14)ではホーキング博士を巧みに描いて泣いてしまった。今回は英国風の渋いユーモアがふんだんで楽しんだ。

監督もそうだが、マイケル・ケインを始めとして俳優全員がイギリス出身で、みんなもちろんイギリス英語。久しぶりにアメリカとも欧州とも違う純英国の粋な感じを味わった。老人のギャングといえば、ジャン=ピエール・メルヴィル監督のフランス映画に、ジャン・ギャバン演じる老人がチームを組んで最後の大強盗を企てる『賭博師ボブ』(1956)があったが、ああいう闇世界の哀愁はこの映画には全くなかった。

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