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2021年2月22日 (月)

「コンスタブル展」と映画

三菱一号館美術館で始まったばかりの「テート美術館所蔵 コンスタブル展」を見た。正確に言うと、珍しく内覧会に出かけた。昨年5月に『美術展の不都合な真実』という本を出して以来、知り合いから文句を言われそうでそういう場は遠慮していた。コロナ禍でオープニング自体が減ったこともあるが。

19世紀前半に活躍した英国の画家、ジョン・コンスタブルは、私が短い新聞記者の間に、栃木県立美術館所蔵の《デダムの谷》について記事を書いたことがあった。学芸員の方にじっくり解説を聞いてまとめただけだが、縦長の画面に近景、中景、遠景と描き込む画面に映画的なものを感じていた。

いわゆるアンドレ・バザンの言う「画面の奥深さ」である。バザンはオーソン・ウェルズやジャン・ルノワールが一つのショットの中に奥深くまで人物や景色を見せる画面を、リアリズムのための重要な手法として評価した。クロース・アップと編集で観客にわかりやすく語るよりも、奥深いショットの長回しで現実を丸ごと見せることが新しい映画のために必要とした。

コンスタブルはウェルズやルノワールより百年前に活躍しているが、当時重要と見なされた歴史画や肖像画ではなく「自然に忠実に」をモットーに風景画の革新に向かったのは、ある意味でリアリズム運動なのかもしれない。《雲の秀作》(1822)は、雲だけを描いたある意味でシュールな絵だが、これもまた「自然に忠実に」から生まれたものだろう。

「雲の習作」シリーズは100点ほどあるらしいから、並べたらさぞおもしろいだろう。さらに映画を感じたのは、コンスタブルが英国の港町ブライトンを描いていることだった。映画史でブライトンと言えば、エジソンやリュミエール兄弟が映画を発明した後に、1900年前後に野外撮影やクロースアップや同時進行の平行モンタージュを用いて映画の語りを作り上げた「ブライトン派」が知られている。

英仏海峡に面したブライトンで何人ものカメラマンが映画の技法を開発したわけだが、その百年近く前にコンスタブルはこの海岸をダイナミックに描いている。《落ち穂をひろう人々、ブライトン》(1824)では上の2/3を荒れ狂う雲が覆い、手前に飛ばされそうな2人の農婦、真ん中と右側に風車が鳥のように描かれている。

コンスタブルがブライトンに滞在したのは妻の病気の両用のためだが、海に面したこの土地が、自然の「動き」に対して敏感にしたのだろうか。ここで描かれた絵はどれも雲が生き生きとしている。

同時代に活躍したウィリアム・ターナーの絵も数点あった。比べるとターナーは違うとすぐにわかる。水彩画も油絵もどこかにファンタジーというか妄想めいたものが漂う。1832年のロイヤルアカデミー展でコンスタブルの《ウォータールー橋の開通式》と同じ部屋に展示されたターナーの《ヘレヴーツリュイスから出港するユトレヒトシティ64号》が富士美術館所蔵で今回並べて展示されていて興味深い。ターナーの横にあるとコンスタブルが実に古典的に見えてくる。

展覧会はテート美術館所蔵に加えて、富士美術館の作品のように国内美術館からも集めている。栃木県立美術館の作品にも再会できた。5月30日まで。

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