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2021年2月21日 (日)

『AGANAI』に震える

3月20日公開のドキュメンタリー『AGANAI 地下鉄サリン事件と私』を見た。「編集」を担当したパリに住む友人、渡辺純子さんから連絡があったから。監督のさかはらあつしはオウムによる地下鉄サリン事件の被害者だが、114分、その濃密な時間と空間に震えた。

映画は1995年3月20日の地下鉄サリン事件の映像から始まる。警察の無線は混乱して何を言っているのかわからないほどだが、13人が死亡し6000人が負傷した事件の衝撃の大きさは伝わってくる。それから15年後、地下鉄に乗り合わせてその後遺症を抱えるさかはらは、オウム真理教を引き継ぐAlephアレフの広報部長、荒木浩に会う。

最初は荒木浩の案内でアレフの施設を写しているが、だんだんカメラは荒木個人に向かう。あるいはむしろ、荒木とさかはらの無限の会話を見せてゆく。おもしろいのは二人で旅行を始めることで、被害者と加害者なのに妙に仲が良さそうにも見える。

さかはらはカルフォルニア大学バークレー校の野球帽を被り、ちょっと太めで黄色いジャンパーを着て、関西弁で饒舌に話す。つまり、マイケル・ムーアの感じ。荒木は紺のパーカーで痩せていて、少しだけ関西訛りの標準語で言葉を選びながら考え込み、まるで哲学者のよう。この組み合わせは、一見するとほとんど喜劇に近い。

二人は共に京大卒で1年違い。一緒に京大に行って野球をする学生を見ながら懐かしむ。さかはらの郷里の丹波(京都側)に行き、2人は川で大声を挙げながら石投げに興じる。あるいは荒木が子供時代を過ごした高槻のユニクロで、さかはらは荒木に「寒いやろ」と赤いダウンを買ってあげる。

2人は荒木の田舎(兵庫側の丹波)に行くが、途中で祖母の家の近くを列車が通ると荒木は泣きだす。あるいは1994年に出家した時のことを細かに語り出す。また、荒木は子供の頃にふいに物欲が消えた話をする。ときおり、川や山や家並みが写るとほっとする。周囲の物音も優しく感じられる。

その一方でさかはらは荒木を責める。自分の両親を会わせ、幹部として謝罪をさせる。さかはらが事件後にどんな苦労をしたかを語る。そして荒木に彼の両親に会うよう主張する。荒木は悩んだ末、行くことに決める。

ニコニコしながら目は笑っておらず、ぽろりと強い言葉を放つさかはら。考え込んで自分の闇に向き合う荒木。1995年からの20年間、平成の日本を生きた私より少し下の世代の裏面の歴史がそこにあった。明らかに自分が生きてきた時代が濃厚に刻印されている。この映画は平成日本を考えるうえで、大きな意味を持ってくるのではないか。必見。

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