オンラインの最終講義に考える
先日、私が勤める大学の先輩教授、田島良一氏の最終講義をオンラインで開催した。と言っても私がやったのは、昨年11月に「やろう」と言い出して本人を説得して日時を決めて当日の司会をしただけ。あとは卒業生2名や専任講師、助手の方々が実務をこなしてくれた。
思いついた11月初めの段階では東京の感染者数は今と同じ一日300人前後だったので、3月半ばには十分に収まっていると考えた。だから当然対面で実施し、何とパーティまで考えていた。実際、最初は「終了後のパーティは未定」という案内まで出した。ところが11月末から感染者は500人を超え、年末には千人以上に。
1月8日に緊急事態宣言が出てから少しずつ感染者は減っていった。このままいくと3月8日には解除されるので、対面でできると考えた。通常だと500人収容できる大ホールを予約し、2月半ばに学部に100人参加の申請書を出したが「対面は不可」と却下された。これまで同様の申し出を断ったからというのが理由。そこで急遽Zoomを使ってオンラインでの実施を決めた。
これが意外によかった。まず遠方に住む卒業生が参加できた。発言してくれた卒業生だけでも、ロス、ボストン、シドニー、ソウル、沖縄、山形といた。もっといただろう。それに顔の表情がこれほどクリアに見えるのもオンラインならでは。田島先生の温和で万年映画青年の風貌や語りをみんな楽しめたと思う。
卒業生も画面だとよく見える。それを見て田島先生も「おお、顔はよく覚えているよ。なんという名前だっけ」と話す。講義はピンク映画の女優や無声映画の弁士になった卒業生の話を中心に、彼が好きな映画の蘊蓄を語るものでほのぼのとした雰囲気が漂った。「私はチャンバラ映画やピンク映画が好きで、ヌーヴェルヴァーグなんて苦手なんです」
午後2時半から雑談を始め、3時から4時半まで講義と質問に花束贈呈。それから非常勤の先生や元助手からの一言、そして卒業生からの一言。卒業生を中心にほかの先生、彼の知人が約100名で、在校生が20人ほどか。その半分にも話してもらうことはできなかったが、みんなが彼の授業を懐かしんでいた。そしてそれをみんなが聞くことで、パーティでさえもできないような一体感が生まれた。
映画界で活躍している卒業生が多いことにも改めて驚く。撮影現場や配給や映画館に勤めている方がたくさんいた。国立映画アーカイブにも数名いるし、ロスで映画保存のラボに働く方もいた。大学の先生も数名。みんな彼の授業の内容やその言葉を胸に、働いていると語る。当時配られたプリントを画面の向こうで見せた学生も複数いた。
卒業生からのコメントは終わりがなく、結局5時半で終わりにした。雨の日のオンラインだったが、人間の繋がりの温かさをたっぷり吸い込んだ午後だった。
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