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2021年3月29日 (月)

『ミナリ』がアメリカでウケるわけ

リー・アイザック・チョン監督の『ミナリ』がアカデミー賞の6部門にノミネートされて公開中だ。実は2月末に最終試写で見たが、正直なところ「えっ、これが」と思ったので、公開後にアップすることにした。

それなりの力作だとは思う。1980年代を舞台に、アメリカのアーカンソー州の高原で農場を開こうと苦労する韓国の一家を描く。冒頭、美しい自然のなか、ジェイコブが運転するトラックで降り立ったのはトレーラーハウスで、妻のモニカはすぐに不快な顔をする。

ジェイコブとモニカはその前に住んだカリフォルニアでやっていたひよこのオスメスの選別の仕事を見つけるが、ジェイコブは農場を買って成功を夢見る。2人の子供のうち下のデビッドが病気がちということもあって、結局韓国からモニカの母スンジャを呼び寄せて子供の世話をしてもらうことになる。

このおばあさんをデビッドは最初は恐れるが、だんだん仲良くなる。彼女は川沿いに韓国から持ってきたセリ(これが韓国語で「ミナリ」で、映画の題名)を植えると、だんだん大きく育ってゆく。しかし農業は思うようにいかず、おばあさんは病気になる。デビッドの病状が好転し、野菜が売れるかと思いきやさらなる不幸が起こる。

映画は自然のなかで必死で生き延びようとする韓国人たちを優しく描く。農業を手伝う信仰の厚い変人のポールや、家族が行く教会で出会う人々も素朴でいい人ばかり。それぞれが点描のように巧みに配置されている。

見ていて、リアリズムよりも美的なセンスの良さや音楽の巧みさが前面に出てどこか乗れなかった。同じ製作会社PLAN Bによる『ムーンライト』(16)のように、マイノリティを描いた映画でありながら一歩引いた快さで観客を引き込む。家族のそれぞれがきちんと描かれているし、ベテランのユン・ヨジュン演じるおばあさんが抜群の存在感を見せるのだが。

チョン監督はアメリカ生まれの韓国系で、映画で描かれた1980年代のアーカンソー州の農場で育ったという。アメリカのその時代と土地を熟知している移民の監督が、普通のアメリカ人向けにわかりやすく美しく過去のマイノリティの悲劇を語る。そんな映画だからアカデミー賞で数多くノミネートされ、アメリカを中心に50以上の賞を取ったのだろう。

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