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2021年3月14日 (日)

『DAU.ナターシャ』の気持ちの悪さ

ロシアのイリア・フルジャノフスキーとエカテリーナ・エルテリ監督の『DAU.ナターシャ』を見た。旧ソ連の独裁体制を再現した映画というので、予告編で見て興味が沸いた。結果は予想に違わず、悪夢のような実に気持ちの悪い映画だった。

いつの時代とも画面には示されていないが、明らかに旧ソ連らしい研究所に併設されたカフェで40代のナターシャは働いている。20代前半のオーリャを助手として使っているが、二人の仲は微妙で喧嘩になることも。そんな時フランスから来た研究者リュックを迎える夕食会があり、ナターシャは酔った勢いでその男と一夜を過ごす。KGBはそれを嗅ぎ付け、彼女を脅して書類を書かせる。

それだけの話だが、まるで手持ちカメラで撮ったドキュメンタリーのよう。編集はないに等しく、動き回るカメラが人々を追いかける。最初は恋に破れて希望もなく仕方なくウェイトレスとして過ごすナターシャを見せる。ビール、ウォッカ、ワインと次々に飲み、煙草をプカプカ吸う。ほとんどがカフェの中なので見ていて息が詰まりそう。

そこまでは暴露的なドキュメンタリーという感じだが、そこからリュックを歓迎する研究者たちの乱痴気騒ぎに及んでだんだん唖然としてくる。ナターシャとリュックは酔っ払って抱き合い、オーリャの部屋で関係を持つ。この中年同士の性交がまるで盗撮でも見ているようにリアルで強烈。ナターシャとオーリャは飲み続け、オーリャは酔って風呂で裸になる。それを呆れて介抱する男たち。

その後、ナターシャはKGBに呼び出される。ナターシャを尋問するアジッポが本当に怖い。ナターシャを殴って裸にして脅し、無理やり書類を書かせる。ナターシャはアジッポを誘惑して自分に有利に運ぼうとする。ここまで来ると本当にソ連時代に撮ったドキュメンタリーそのもので、戦慄が走る。

見終わってHPを見ると、この映画は旧ソ連の全体主義を再現するプロジェクトで、スタッフとキャスト数百人は2年にわたり当時の服を着てそこに住み、それぞれが主役になったり脇役になったりする映画を10本以上作ったという。ナターシャもオーリャも素人で、リュックは本物の科学者、アジッポは刑務所やKGBで働いた経験があるらしい。

ロシア的なとんでもない誇大妄想のプロジェクトだが、ここで作られたほかの作品も見たくなった。撮影はドイツのユルゲン・ユルゲスで、素人の長回しのように見えて、狭い閉ざされた空間の恐怖を最大限に生かすシーンを作り上げている。

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