『サンドラの小さな家』に泣く
英国のベテラン女性監督、フィリダ・ロイドの『サンドラの小さな家』を見て少し泣いた。アイルランドのダブリンで夫のDVに耐えかねて家を出て2人の子供を育てるサンドラ(クレア・ダン)の話だが、冒頭に彼女の苦労する姿が出てくる。通いであちこちの家の老人介護をしたりレストランで働いたりしながら、2人の子供を保育園に送り迎えする。
とにかく休む暇もない。住むのは市に紹介された空港そばのホテルだが、飛行機の音はうるさいし、一般用のロビーは通らせてもらえず、遠回りをして通用口から入る。そのうえ、週末は子供を夫の両親の家に連れて行かねばならない。元夫が耳元で脅迫の言葉を吐くと、身体が震えだす。
ホテルから抜け出そうと公営住宅への入居を希望するが、順番は回ってきそうにない。民間の安い住宅の応募にも大勢の人が並ぶ。そんな時、自分で家を建てることを夢見ていると、介護をしている大きな家に住む老人女性のペギー(ハリエット・ウォルター)から「私の家の庭に建てたら」と言われる。私が泣いたのはその瞬間で、サンドラの嬉し泣きにつられた。
ネットで自分で家を建てる方法を見て、建設会社に頼らずに建てようとする。建材店に行くが話にならず、近くにいた男エイドが見かねて手伝う。建築許可も下りたが、心臓が弱いエイドとサンドラではどうにもならない。サンドラは会った人に助けを求め、週末には何とか4,5人が集まってきたが、ヘンな連中ばかり。
それでも毎週末ごとにみんなが集まって、少しづつ家の形ができる。これが見ていて楽しい。しかしサンドラは下の娘が元夫を怖がって会おうとしないことで、元夫に訴えられる。その裁判を何とか乗り切るとさらなる不幸が起きる。
設定自体はケン・ローチの映画に似て絶望的な状況で生きるシングルマザーの話だが、こちらは山あり谷ありが交代で出てきてドラマチックに作られている。ある種のファンタジーのようでもあり、音楽もそれぞれの場面をしっかり盛り上げる。その演出が巧みな分、リアリティは少し遠ざかった気がした。
この映画はサンドラを演じたクレア・ダンの企画で脚本も書いている。それをあちこちに持ち込んでベテランのプロデューサーや監督を動かしたという。この映画のサンドラに、その気迫が自然にたっぷりと感じられるのが最大の魅力だろう。
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