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2021年5月 6日 (木)

『青年★趙』に見る中国の若者

去年から大学院で中国人留学生数名に教えているが、彼らが本当のところ何を考えているのかわからない。もしコロナ禍がなければ飲みに連れて行って聞き出すところだが、それもできない。授業だけの付き合いで、そのうえ多くはオンラインだから。

そんな時、去年に続いて今年も私の授業を取っている王さんから2本の中国映画をデータでもらった。彼は去年の学生企画の映画祭「中国を知る」のセレクションに少し不満だったので、こういう映画をやるべきだと思ったのかもしれない。どちらも英語字幕付き。

1本は若き愛国者を撮ったドキュメンタリー映画でなかなか見応えがあった。原題は「少年*小趙」で英語題はA Young Patriotだったが、見終わって調べてみたら2015年の山形ドキュメンタリー映画祭にコンペで出ていた『青年★趙』だった。この年も山形には行ったはずだが、見ていない。

映画は、美しい古都の繁華街で若い男が赤襟の人民服を着て中国の国旗を振り回しながら、大声を挙げて歩くシーンから始まる。そこは山西省の平遥で、日本が尖閣諸島付近で中国船の船長を捕まえたことを激烈に非難していたが、まるで熱に浮かされたようだ。その趙君は高校生で、映画はその後の彼を見せてゆく。

大学入試に落ちて大きなホテルで働く。そこで彼は日本人が礼儀正しく、謙虚なことに驚く。翌年、四川省の西南民族大学に合格して寮に入る。21世紀は中国の世紀だ、資本主義は中国に合わないと言う先生の授業を一番前で聞く。女の子とも仲が良くなり、バイクに乗せてドライブを楽しむ。いつも迷彩色の軍隊風の帽子をかぶるのは、やはり軍隊好きか。

まじめな趙君は、少数民族に15日間ボランティアで教えに行くグループに加わる。何とか全員が乗るバンを見つけて行ってもらう。最後は歩きになるあたりから、岩波ホールでやっている『ブータン 山の教室』を思い出した。しかしこちらは黒板もノートも鉛筆もある。だが少数民族の子供たちは中国語ではない言葉を話す。

英語なども教えるが、一番は標準中国語を教えること。子供に国家意識が欠けていると感じた趙君は町に出かけて大きな国旗を買い、校庭で国歌を歌わせて国旗掲揚の式をする。それは彼が天安門広場で見た風景の再現だった。

後半、彼の故郷の平遥の父母や祖父母が出てくる。祖父母は開発のために立ち退きを命じられている。趙君に初めて国家への疑問が生まれる。また汚職や賄賂のニュースにも彼は怒る。髪を切り、坊主頭になった趙君は泣きながら祖父の葬式に参加する。

時代は2010年から12年くらいまでで中国に反日感情が強かった頃だが、地方出身で大学に行った1人の生真面目な若者の表情の変化が目に焼き付いた。監督の杜海濱(ドゥ・ハイビン)は1972年生まれで、既に国際映画祭での受賞歴もあるベテランだった。この映画はフランス、アメリカ、中国の合作で編集や録音に欧米人の名前があった。

王さんにおもしろかったとメールを書いたら「あの主人公は僕らの世代なんです」と返事が来た。

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