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2021年5月27日 (木)

『やすらぎの森』の湖で泳ぎたい

カナダ映画『やすらぎの森』を劇場で見た。予告編で見た老人たちが住む湖がいい感じに見えたから。監督がルイーズ・アルシャンボーという女性であることやケベック州の仏語圏の映画であることも気になった。

カナダのフランス語はフランスのフランス語に比べると、ちょっと乱暴というか、ゴツゴツしている感じに聞こえる。だからグザヴィエ・ドランの映画で登場人物がヒステリックに叫ぶと、かなり神経にさわる。ところがこの映画で老人たちが話す言葉は、何とも柔らかだった。

冒頭、森の中の小屋に住む3人の老人が、湖で泳ぐ。正直、もうこれだけでよかった。先月半ばからスポーツジムが閉鎖されて泳いでいないこともあり、泳ぐことの快感に飢えていた。もちろんプールよりも海や湖がいい。昔、夏休みに熊本の母の実家に行くと、近くの大きな川でよく泳いだことを急に思い出した。

映画では何回も湖を泳ぐシーンが出てくる。3人の老人のうち1人テッドが心臓発作で死に、そこに長い間精神病院にいた老女がはいり込む。老女はそこの生活を気に入り、そこに住むチャーリーと仲良くなる。かつての名前を捨ててマリーと名乗る老女は、チャーリーに導かれて湖で泳ぐ。その嬉しそうな様子といったら。

80歳を超したマリーとチャーリーが後半で関係を持ったのには驚いたが、その時もマリーの描写もよかった。これまでこんなに優しく抱擁されたことはなかったと涙ぐむ。10代の時に精神病院に入れられて、何十年も閉じ込められた生活をしてきた彼女の深い闇にようやく光が差す。

映画は、山火事の取材をしている女性写真家が彼らに出会い、死んだテッドの部屋で山火事を描いた大量の絵画を見つけたり、マリーの甥にあたるホテルを経営する男性と出会ったりと、いくつもの物語が交錯する。ある小説の映画化というが、映画ならこれほど複雑にする必要はなかったかもしれない。

もう一人の老人トムの弾き語りもいいし、彼が自分で墓を掘って愛犬と共に死んでゆくシーンも印象に残る。しかし何よりも泳ぐシーンが一番よかった。私も早く泳ぎたい。できたらあれくらいの大自然の中で。そのことを強く感じた。

 

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