『グンダーマン』の描く旧東独
ドイツのアンドレアス・ドレーゼン監督の『グンダーマン 優しき裏切り者の歌』を劇場で見た。この旧東独出身の監督は2005年の『ヴィレンブロック』をその年に始めた「ドイツ映画祭」で上映したから、名前に記憶があった。予告編を見てぜひ見たいと思った。
映画は1970年代後半と1992年の2つの時代を行き来する。主人公のグンダーマンは実在したシンガーソングライターだが、どちらの時代でも彼は炭鉱に勤めながら空いた時間にコンサートをしている。2つの時代の間には、ベルリンの壁の崩壊と東西ドイツの統一がある。
1970年代の方は、一生懸命に働いて官僚的な上司を猛烈に攻撃し、夜はステージに上がって歌う姿が描かれる。仲のよかった女友達のコニーは結婚して子どもも生まれるが、グンダーマンと再び近づいてゆく。彼のバンドは人気があがり、ハンガリーやイタリアなどの海外公演の声もかかる。そんな時シュタージ(秘密警察)から協力の依頼が来る。
1992年は結婚したコニーと仲良く暮らしており、コンサートも大規模なものになった。そこにかつてシュタージに協力したことを咎める男が現れる。シュタージの公文書には、彼の動きを記録した膨大な文書があった。彼自身もスパイされる対象だった。
映画は2つの時代を交互に見せるだけで、ほとんど説明がない。最初はどちらの時代かさえもわからないくらい。それでも彼が炭鉱で老いた女性と交代でパワーショベルを運転し、ギターを弾きながら歌う姿はすばらしい。シュタージへの協力に悩んでいる姿はなく、淡々と忙しい毎日を見せてゆく。
何より10曲は超す歌うシーンがいい。彼の歌はまさに労働者の歌で、炭鉱で仲間の前で歌うシーンにはほろりと来る。さすがに1992年だとバンドを組む仲間のレベルも高く、ドラムやサックスなどの組み合わせが楽しい。ある日彼は仲間にシュタージの話をして、さらにコンサートでも観客に真実を語る。
一番おかしいのは、コニーが前の夫と別れてグンターマンと一緒になるシーン。夫は大きなリュックとスーツケースを持って家を出て、グンターマンのアパートの前で同じような格好の彼と会い、お互いの住処を交換する。何ともドイツ的な合理主義なのか、旧共産圏ならではの住宅事情なのか。
見終わるとグンターマンの歌の数々が心に染み渡ったのに気がつく。『善き人のためのソナタ』(2006)のように旧東独のシュタージに勤務する男の悲哀を描くではなく、東独に生きたシンガーソングライターの自然体の日々が描かれている。
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- 『ウォーフェア』の見せる戦争(2026.02.11)
- 『恋愛裁判』の安定感(2026.02.07)
- またアメリカの実験映画を見る(2026.02.03)
- 「構造映画」を見る(2026.01.28)


コメント