シネマヴェーラの「Men & The Guns」:その(1)
とにかく映画館が開いていないので、いろいろ探して渋谷のシネマヴェーラにたどり着いた。「Men & The Guns」と英語で書かれた特集で、リチャード・フライシャー、アンソニー・マン、ジョセフ・H・ルイスの名前が書かれている。いずれも映画通がニヤリとしそうなアメリカの渋い監督ばかり。
たまたま時間が合って見たのは、ジョセフ・H・ルイスの『私の名前はジュリア・ロス』(1945)。この監督は『拳銃魔』(1950)が大好きだが、ほかの映画はたぶん見たことがない。
ロンドン。若い女が大雨の中を下宿に着くところから始まる。ジュリア・ロス(ニナ・フォック)は生活が苦しいが、新聞広告で「高給、秘書、住み込み」を見つけて駆け込むと運よく採用される。雇用主も現れて安心していると、次には彼女は知らない家でベッドで寝ていた。そこはロンドンから遠く離れたコーンウェルという街の海に面した邸宅だった。
メイドからは「マリオン・ヒューズさん」と呼ばれ、彼女は自分が別人として監禁されていることを知る。これは女の妄想が生む監禁ものかと思いきや、何とか逃げ出そうとする彼女と彼女を病人として監禁して最後は殺そうとするヒューズ母子との壮絶な駆け引きでグイグイと最後まで引っ張ってゆくサスペンスだった。
例えばジュリアが恋人に助けを求めて出す手紙は、ヒューズ夫人が見つけて中身を白紙に入れ替える。ジュリアはそれを知っていて出す直前にさらに入れ替える。ヒューズ夫人は白紙でも危ないと手紙を取り戻すために男をロンドンに送る。男は手紙が恋人の家に着いたギリギリで入手するが、不審に思った大家さんは男を追いかける。
精神を病んでいるのは実は息子のヒューズで、刃物が好きで妻を殺したことを世間に隠して、母と計画を立てて秘書に応募した若い女を妻に仕立てたという構造。母子はジュリアが言うことを聞かないとわかると殺そうとするが、階段を外して落とそうとするなど凄まじい。母役のメイ・ウィッティが本当に怖い。
最後はジュリアが窓から海に身を投げたと見せかけて、母子の陰謀を世間に暴くというドラマチックな終わり。66分、全く退屈せずに画面を見続けた。お金を使わないためか長回しが多く、一つの画面の奥に何人もの登場人物を見せる。どこか増村保造のようなタッチを感じた。この特集は通わないと。
特に有名な作品ではないと思うが、平日午後で50人ほど。ほぼ男性で女性は3、4人。2、3割が学生であとは40代以降か。調べたらDVDも出ている。コロンビア映画。この作品は授業で扱いたいのですぐに買った。
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