渋谷で『街の上で』を見る
とにかく開いている映画館が少ない。やっている個人商店の映画館の作品は試写などで見ているものが多い。何かないかとたどり着いたのが、渋谷のユーロスペース2階「ユーロライブ」の今泉力哉監督『街の上』。本来ならばそこは「イタリア映画祭」のはずだった。
イタリア映画祭の中止が決まったのが26日(月)だったから、シネマカリテが閉じた『街の上』を押し込んだのだろう。予約して行って驚いた。178席の半分強にしていたが、それがほぼ埋まっていた。さらにビックリしたのは若者が圧倒的に多かったこと。
感じとしては『花束みたいな恋をした』の客層に近い。つまり、サブカルの匂いのするお洒落系だったが、映画を見ると登場人物たちに近かった。主人公の青(若葉竜也)は30歳くらいで古着屋に勤め、レジでいつも本を読んでいる。初めての彼女(穂志もえか)に捨てられて気落ちしているが、魅力的な女性と次々と会う。
よく訪ねる古本屋の女性店員(古川琴音)とはいい感じだし、ライブハウスで会った美女にも声をかけられる。極めつけは、卒業制作で映画を作っている美大生(萩原みのり)に本を読んでいる姿がいいので映画に出てくれと誘われる。調子に乗って撮影に参加するがNGの連続で、打ち上げの席で会ったスタッフの女(中田青渚)に誘われて彼女の自宅に行く。
撮影現場で会ったプロの俳優(成田凌)が実はという話もあって、若い男女の思惑が微妙に絡み合って進んでゆく。映画はその複雑な人間関係を長回しと場面転換の軽妙さで見せていく。つまりはいつもの今泉力哉監督の若者恋愛群像劇だ。
今回の特徴は舞台が下北沢で、古本屋、古着屋、ライブハウス、バー、映画撮影といったサブカルに取り囲まれていること。来ている若者はそれを知って自分の世界を見に来たのだろう。女性の名前が「城定秀夫監督と同じ城定」と言うセリフに誰も反応しなかったら、映画マニアはいない。
この監督の恋愛劇はエリック・ロメールやホン・サンスのようだとも言えるが、違いはどこかリアリティが感じられないこと。巧みに人間関係を操っているが、例えばこの映画の登場人物たちが本当に何を考えて生きているのかはあまり伝わってこない。それが若者には気持ちいいのかも。
さて渋谷の街はGWの土曜にしてはかなりすいていた。それでもカフェでもラーメン屋でも若者たちが大声で話し込んでいる。映画館を閉めるよりも、やはり飲食店を基本的に閉じた方がいい気がする。映画館ではうつらなくても、その後が問題だから。しかしこのまま行くと5/11以降の「強化策」でアート系映画館の閉鎖に行きそうな気がする。
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